今回も日本企業が揃って投資に踏み切ったら市場はピークアウト

またか。日経1面のトップニュースを見てため息が出ました。コロナ禍に入ってテレワークが普及してIT需要が急拡大します。半導体工場を作るには時間がかかるため、供給を急に増やすことはできません。結果として2021年に半導体が不足して自動車の製造ラインが止まるという事態になりました。

日経新聞(2021年12月28日)

2022年末にかけて半導体不足は解消していきますが、2022~2023にかけて多くの日本企業が半導体の新工場計画を発表しました。半導体不足の状況から社内や工場の立地自治体と議論に1年ほどかかるということなのでしょうが、どうもタイミングが悪い。特に、普段は投資していない日本企業が揃いも揃って投資に踏み切るときは、石橋を叩きすぎてタイミングが遅れているため、既に市況がピークアウトしたタイミングが多いというのは、もはや法則に近い再現性の高さだと思います。「あの会社が投資したから、うちも」とお互いに相手を見ていて、実は誰も自分で考えていないように見えてしまう。当時、Laurus Investmentsというカナダの運用会社で日本の半導体セクターを調べていて、「10年ぶりの新工場建設決定」という威勢のいいリリースを見るたびに、残念ながらこの工場が竣工することには半導体サイクルは終わっているのだろうなと思っていた通りになってしまいました。

不動産開発でも似た兆候が見て取れます。オフィスの空室率が下がっても、すぐにオフィスは建設できない。計画・着工して大型ビルができる5年後くらいには景気サイクルが反転していることが多いです。人と同じ行動をして、人より儲けることはできません。景気が悪いときにこそ投資できる企業は希少です。

上海旅行(教育事情)

日本でもニュースになるほど過酷な中国の受験競争、現地で中国人ガイドを雇ってその実情を聞いてみた。まず小学校、中学校は戸籍と住所によって学校が決まる。中国では大学まで公立の方がレベルが高いそうで、小学校、中学校受験は基本的になし。高校は上海中心部の8区ごとに地区の公立高校受験があり、最後の全国大学受験へとつながる。

中国人ガイドに教育事情を知りたいとお願いしたら、中学3年生の娘さんを朝学校に送っていくところから同行できることに。このガイドさん、娘をより評判の良い中学校に通わせるために、祖母の住所を借りて学区を変更しているため、車で送迎が必要。朝7時待ち合わせて、始業が7時半と早い。そこから午後6時半まで中学校で勉強。部活ではなく、机上学習。高校入試に体育科目があるそうで、運動するのはそのため。帰宅後も午後11-12時まで勉強が続くそうだ。週2回は大学生を家庭教師に雇っているらしい。日曜は塾に朝8時から午後4時まで。土曜の少し朝が遅いらしいが、やはり勉強。学校まで送る車中で娘さんと少し話したが、疲れていると。いつまで勉強するのかと。高校に入っても大学受験に向けて勉強が続く。上海の戸籍を持っていても十分に大変そう。激烈な受験戦争の弊害として、子供のバーンアウト、自殺も増えているそうだ。中国の報道統制でなかなか表沙汰にならないのかもしれないが、現実逃避して「寝そべり族」になりたくもなるだろう。これだけの勉強量で鍛えられているから、最近中国人が日本に移住して、日本語を一から勉強した上で東京大学を一般受験して合格していると聞いても驚かない。ベースの勉強量が圧倒的に違う。

2021年に中国で営利目的の塾産業を規制する方針が発表されて上場している教育企業の株価、例えば最大手の新東方集団(New Oriental)が急落する事態になったが、現地の人に聞くと何も変わっていないとのことだ。今回のように、需給がバランスしている場所が気に入らないからと供給側だけで均衡点を調整しようとしても、まずうまく行かないということだろう。大学受験をゴールとする中国の教育システムという需要側を変えることなく、持続的な均衡点の変化はなしえない。

受験改革の一環として体育教科を取り入れたら、体育を教える塾が増えただけ。小学校低年齢の子がショッピングモールに入っているこうした塾の一つで走り方の個別指導を受けていて、その間に小太りお父さんはスマホにくぎ付けになっている姿がシュールだった。

上海旅行(戸籍制度)

中国を理解する上で避けて通れないのが、戸口(hukou)と言われる戸籍制度。日本にも戸籍はあるが、日常生活で意識をすることはない。本籍地を好きな場所に指定でき、一番多い本籍地のは東京都千代田区千代田1番の皇居というのどかな制度。それに比べて中国の戸籍は日常生活のあらゆる面に影響を及ぼしている。1950年代に農村から都市への人口移動を制限するために導入されたそうだが、今でも就労・就学の自由を制限することで移動の自由を制限する仕組みになっている。

例えば上海の戸籍を持っていないと、仮に上海に引っ越してきても行政サービスが受けられないそうだ。上海の公立学校はレベルが高いと評判だが、上海戸籍の子供しか通えない。上海の戸籍がない子供はどうするのか?戸籍がない子供が通う学校があるそうだ。医療でも、上海の戸籍がない人が上海の病院に行くと全額自己負担になるらしい。上海の戸籍があれば、半額程度は医療保険の補助がある。上海戸籍がないと、上海の不動産も購入できない。行政、教育サービスが一番発達しているのが北京や上海、杭州、深圳という4つの1級都市。ここから5級都市までランクがあり、この人たちは都市戸籍。さらに、農村戸籍もあるらしい。日本では親ガチャというが、中国では戸籍ガチャ。生まれた場所(戸籍)で、その後の将来が大きく影響されてしまう。

戸籍を変える方法はあるのか?一つは結婚。しかし、偽装結婚を防ぐために、仮に上海戸籍の人と結婚してもすぐにはもらえない。10年かかるのかな?あとは学歴。上海も優秀な人材は欲しいので、例えば復旦大学のような上海の名門大学で大学院を卒業すると、博士なら自動的に戸籍がもらえるそうだ。修士+上海での勤続年数でもOKかな?上海の知り合いの奥さんは、南部の南寧市の出身。南寧市も各省や自治区の省都にあたる二線都市だから、広い中国の中での戸籍ガチャでは当たりくじ。そこから勉学優秀で復旦大学の修士卒業して上海で就職。めでたく上海の戸籍に切り替えることができたそうだ。戸籍すごろくの頂点に位置するのが上海・北京であり、子供に引き継ぐことができる。

広い中国では、戸籍がまるで国籍のようなイメージだと感じた。日本から外国に移住するには学歴など、なぜその国に自分が必要なのかをアピールする必要がある。戸籍を切り替えるチャンスは少ない。結婚のような他力本願ではなく、自力で切り替える唯一のチャンスが大学受験。だから受験が過熱するし、親も子供の教育を全てに優先させる。戸籍制度を理解することで、中国人の行動をよりよく理解できた気がする。

上海旅行(ブランド)

上海では、ブランド品を身にまとった人が多くて驚いた。しかも、ブランド名を積極的に見せようとするのが、発展したばかりの国の特徴だと思う。Nikeの靴はもちろん、オニツカタイガーも多い。高齢者がNorth Faceを着ていることには驚いた。自分で買っているのか、子供からプレゼントされたのか?

若い女性はLui Vuittonのロゴがしっかり見えるバッグを持つ。日本でも1990年代に女子高生が背伸びして買っていたことが懐かしい。可処分所得が伸びたときに、まずはブランドを買ってみたくなる。買えるようになった自分をアピールしたくなる。だからブランド名がしっかり周りに見えることが大事。そういうフェーズにあるのだなと感じた。Lulu lemonにしろ、Arcterixにしろ、全身をブランドで固めた人が目につく。

統計をみると、2025年に中国は世界の高級品市場の25%シェア。一人あたりGDPが12000ドルで既にこのレベル。日本が34000ドル。これから経済成長が上海など大都市から内陸都市へと波及していくと考えると、一人あたりGDPが20000ドルには届きそう。世界高級品市場の40-50%シェアを占める日もくるのではないか?唯一対抗できるとしたらインドだが、一人あたりGDP2500ドルとまだ発展段階の初期ステージ。しばらくは中国頼みが続くのだろう。

グローバルブランドにとって、中国消費者は最重要だと再認識。インド人も同じようにブランド消費してくれるのだろうか?

共産党第1回会合場所の前にLululemon店舗
見たことないほど巨大なAppleとArcteryx店舗
上海若者5人全員Nikeエアフォース。制服みたいに世界中が同じファッションになっていく。