競争優位性を確立するには時間がかかる

3月末決算の日本企業にとっては、9月末までの第2四半期決算発表シーズンになりました。識学(7049)の下図のような大幅減収・減益決算発表を見て、競争優位性の確立にはそれなりに時間がかかるのではないかと思いました。識学は2015年創業、2019年にマザーズに上場しました。上場直後に創業社長の安藤さんの講演会に参加したことがあるのですが、「当初から4年での上場を計画していた。逆算してやっただけです。」と自信満々に語っていた姿が記憶に残っています。

4年で上場できたということは、ビジネスモデルの構築に2年、成長実績作りに2年というイメージでしょう。逆に言えば、2年あれば真似ができてしまうビジネスモデルと言う事もできます。創業からのスピード上場が評価される風潮がありますが、数年というのは十分な競争優位性を確立して、かつその持続性が試されるには不十分だと思います。

識学の株価推移

スピード上場が話題となった、その他の企業はどうでしょう?スカイプを使ってフィリピンの英語講師とレッスンを行うというビジネスモデルで一時流行った、レアジョブを覚えているでしょうか?2007年創業、2014年に株式上場を果たします。7年でのIPOは、比較的早いでしょう。こちらも以下の通り、上場株価を回復できずに上場廃止となっています(学研ホールディングによる買収)。

短期間で作られたビジネスモデルは、それだけ早く陳腐化するリスクが高いということを認識する必要があります。逆に、家具大手のIKEAの元社長による本を読んでいるのですが、1943年にスウェーデンに創業してから、現在も代名詞となっている持ち帰りができる平箱梱包による店舗を開いたのが10年後の1953年。ノルウェーに海外展開したのは20年後の1963年です。ビジネスモデルを作るのに10年ということでしょう。ユニクロも、柳井さんがジャスコを辞めて実家の衣料品店に入社したのが1972年で、ユニクロ1号店を開いた1984年まで12年。業務スーパーを展開する神戸物産も、1981年創業から、業務スーパー1号店を開く2000年まで19年。IT技術の発達した現在では経営スピードが上がっているのかもしれませんが、強いビジネスモデル構築には10年程度かかっても不思議ではない、いや、むしろ普通だということは覚えておきたいです。

amazon.ca より

安定は、希望ですか?

日経新聞より

日経新聞に、2027年に現在世界4位である日本のGDPがインド、イギリスにも抜かれて世界6位になる見通しという記事がありました。上図の通り、ドル換算での日本のGDPは見事に横ばい。現状維持していますが、成長する他国に追いつかれ、そして追い抜かされてしまいました。GDP世界1位、2位のアメリカ、中国を図表に含めないという判断も、恣意的で好きになれません。2005年は日本のGDPは中国の2倍あったはずです。2010年に追いつかれ、その後25年で5倍の差を付けられてしまいました。5倍というと大きな数字に聞こえますが、年率換算するとわずか6.5%です。1年単位では、6.5%なんて誤差に感じますが、それを25年も積み重ねると5倍もの差になってしまうのが、複利効果の恐ろしいところです。

google検索結果 US China Japan GDP graph history

アメリカと中国はGoogleやApple、TencentやAlibabaに代表される、時価総額が100兆円を超えるような巨大テック企業を生み出せた数少ない国です。この両国や人口が10倍もあるインドに劣後するのは仕方ないとして、日本と同様に製造業中心で巨大テック企業を生み出せていないドイツ、金融業中心でこれまた巨大テック企業とは縁遠いイギリスにも追いつかれ、追い抜かされるというのはどう説明するのでしょうか?ドイツの人口は8000万人、イギリスは7000万人ですから、これは仕方ない範囲には入らないと思います。

滋賀県で大工修行をしていた2013年に見た、公明党の「安定は、希望です。」という選挙ポスターが忘れられません。「安定」というのは様々な解釈ができますが、私は、色々な意味で「変わりたくない」という日本の有権者の思いをくみ取ったキャッチコピーと感じました。それから13年、GDPで見ると日本は見事な横ばいを達成して、「安定」していたのかもしれません。しかし、他の国々まで「安定」して待ってくれる訳ではありません。日本が安定を目指している間に、他国に経済的に追い抜かされ、結果として選択肢が少なくなっている状況に、なんら希望は見いだせません。

公明党HPより https://www.komei.or.jp/campaign/sanin2013/poster/

コロコロ変わる経営陣は危険信号

日本電産の株価推移

日本電産(NIDEC)の問題が続いています。2026年3月期の有価証券報告書についてPwCジャパン監査法人が監査意見を「不表明」としました。つまり、記載内容が正しいことを保証できませんということです。決算内容が信用できないとなると、企業価値評価も難しくなってしまいます。

1973年創業から率いた永守さんは日本を代表する経営者の一人。「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」という永守語録。学歴にとらわれない、能力重視の人事評価制度。また、決算説明会で多くの経営陣が、IRの指導を受けたであろう、型にはまった受け答えをするわけですが、日本電産の説明会はまさに永守劇場。「これだからアナリストは何も分かってなくて困るんですわ~」との軽口が今も耳に残っています。

日本電産経営陣の変遷

いつから日本電産の迷走が始まったのか?私は、社長交代が頻繁になった2015年からではないかと考えています。永守社長が後継者選びと称して、元シャープの片山さんや、元カルソニックカンセイ>日産の吉本さん、元日産の関さんと2-3年で経営幹部が交代していきます。

片山さんは代表取締役副会長どまりでしたが、吉本さんは永守さんに続き2人目の社長就任。永守さんも、「とうとう見つけた」という趣旨の発言をしていたと記憶しています。しかし、永守さんのお眼鏡にはかなわなかったようで、コロコロと交代が続いてしまう。永守プレッシャーが続いたことが、不正会計の温床になってしまったのではないでしょうか?

会社経営は巨大タンカーのようなもので、今行った施策の結果が出るのは4-5年後でしょう。それまでは、良くも悪くも前代社長の経営判断の影響が残り続けるのです。代表取締役の人数がやたらと多い会社(普通は2名まで)、社長が2-3年で交代する会社は要注意だと思っています。

プロテニスとプロゴルフの賞金

最近、新聞で「アメリカプロゴルフ(PGA)のFedExCupの優勝が決まり、賞金10mm USD」という記事を読みました。ちょうどプロテニス界で一番賞金が高い全米オープンが終了したところで、こちらはシングルスの優勝賞金5.5mm USD。テニスの4大大会(グランドスラム)は5セットマッチで、試合時間は5時間に及ぶことがあります。1試合平均3時間としても、優勝までの7試合を勝つには20時間以上かかります。1試合あたりの平均ストローク数は1000回だそうです。7試合で7000回。ゴルフ大会は同じコースを4日連続で周り、パー72打ですから、プロなら大会あたり300打でしょうか。この二つのスポーツを比較すると、心拍数が上がって汗だくになっているテニス選手の方が随分大変そうだな(ゴルフの1打1打のプレッシャーはもっと強いと想像しますが)と思った次第です。怪我のリスクもテニスの方が大きそうです。

そこで、主な大会の賞金比較が上の通り。4大大会の優勝賞金総額はほぼ同等になっていました。しかし、大きく違うのがシーズンを通した成績優秀者によって競われる、テニスのATPファイナルズとゴルフのFedExCup。賞金額が2倍も違います。

プロテニス界では、賞金増額を求めて選手が発言することが増えました。ゴルフも、サウジアラビアがスポンサーにLIVという競合団体ができたことで、賞金が増額傾向にあるようです。動画やSNS時代、テレビを見てもらえる貴重なコンテンツがスポーツ生中継。賞金増額の流れが続くのか興味を持っています。

政策の副作用をイメージするのは難しい

バフェットとマンガーは、常に政策の2次、3次効果について考えるようにと言っています。政治家など短期目線(選挙)なので、1次効果ばかり宣伝する。しかし、複雑な現代社会や経済において、一つのことだけを行うことはできない。ある行動が別の結果を次々に引き起こしてしまうといういう訳です。身近な例で言えば、日本政府は物価高騰に苦しむ有権者を助けるという名目でガソリン代金に補助金を投入しています。1次効果として、ガソリン代は低く抑えられます。しかし、2次的効果として補助金支払いによって財政負担が増して金利上昇や円安につながったりして結局巡り巡って、ガソリン以外の物価上昇につながる可能性するあるわけです。

先日、トロントで日系ブラジル人の方に始めてお会いしました。ブラジルはアマゾン川上流のマナウスで生まれ育ったそうです。彼の話ではマナウスの治安が最近悪化しているそうですが、その理由に驚きました。第1次トランプ政権(2017年1月20日~2020年1月20日)で、メキシコからの不法移民や薬物流入を抑える目的で、アメリカとメキシコの国境沿いの壁を増強し、国境警備も強化しました。結果、1次効果としてメキシコからの人やモノの不正流入は減少したそうです。しかし、貧しい国から豊かな国を目指したいというのは高いところから低いところへ向かう水の流れと同じく、一か所をせき止めれば迂回路が生まれます。コロンビアからメキシコを経由して陸路で麻薬を密輸していた集団は、コロンビアからアマゾン川を下って大西洋経由でアメリカを目指すルートに変わっているそうです。中継地点であるマナウスに麻薬取引関係者が増えてしまい、治安が悪化したという流れです。そして自ら追いはぎに会う経験をした後、家族を連れてカナダ移住を決めたそうです。現実は複雑に絡み合い、思いもよらない結果を生み出していく。

都合のよい1次効果の話しかしない人の言う事は疑ってかかり、その副作用というか、2次・3次効果まで考えられるようになりたいです。

カナダ新聞の家計相談事情

Globe and Mail
2026年8月29日 B10ページ

カナダの一級紙と認知されている、Globe and Mailを紙面購読しています。週1回、実際の家族からの家計相談が掲載されます。日本の新聞との大きな違いは、(1)相談が具体的であることと、(2)記事が長いこと。紙面1ページ 読み応えがあります。

カナダの家計相談を見ていて驚くのは、資産額の大きさです。今週の相談者は、52歳、49歳、19歳、17歳の4人家族。資産額は住居(CAD1.6mm)含めてCAD5.77mm(約6.6億円)。負債は住宅ローンがCAD225,000(約2600万円)のみ。カナダの住宅価格は2022年まで過去50年以上あがり続けてきたので、その恩恵は大きいでしょう。仮に20年前(夫婦32歳、29歳)に購入していた場合、約3倍に値上がり。6千万円で購入した住宅の現在価格が1.8億円。しかし、それ以外にも約5億円の資産を気付いているのです。

Canada Home Prices
https://www.macrotrends.net/datasets/3638/canada-home-prices

現在の手取り月収は夫婦で約CAD25,000(約290万円)。世帯手取り年収は約3500万円と高額に感じます。カナダの所得税率は最高50%と低くはないので、二人合わせて年収5000万円だそうです。この家族を新聞で取り上げるということは、読者にとって参考になる、親近感を感じられる水準だという判断なのでしょうか。

相談内容は、「5年以内にリタイヤしたいが、豊かな老後資金を確保した上で十分な遺産を残せるか」というもの。彼らの定義する豊かな老後とは、毎年1200万円(インフレに合わせて増加)使える状態だそうです。日本のメディアで、老後資金が2000万円で足りるか足りないかと議論していますが、議論の前提(どのような老後を送りたいか)や金額水準が違いすぎて、面白いなと思いました。

地方公務員の給与

トロントから北に3時間ほどいった Minden Hillsという人口約7000人の町で地元新聞を読んで驚きました。「町長が昇給を正当化」という記事によると、Chief Administrative Officer(行政運営のトップを担う専門職。日本で近いのは副町長)の年収が$187,046(約2100万円)だったというです。Director of public works(建設部長)は$147,555(約1700万円)、Supervisor of waste management(ゴミ処理部長)は$106,705(約1200万円)とのことです。

ちなみにカナダ、オンタリオ州の公務員で$100,000以上稼いでいる場合、Ontario Sunshinelistというサイトで過去の給与も含めて公開されます。

この給与水準、どう思いますか?Claudeに調べてもらったところ、日本の同規模自治体の給与は以下の通り。副町長クラスで年収800 ~ 1000万円。過去5年の円安効果もあり、カナダの約半額となっています。

戦わないと待遇は良くならない

トロントから3時間ほど北に行った、Algonquin Highlandsで湖畔の貸別荘を借りてのんびりしてきました。Haliburtonという町に出かけて地元紙(The Echo)に、地元の発達障害支援職員が11週間のストライキの末に処遇改善を勝ち取ったという記事があり驚きました。カナダでは頻繁にストライキがあります。つい先日も、大手航空会社のWest Jetの客室乗務員がストライキを行い、多くのフライトがキャンセルになりましたが、1日で終わりました。2025年のAir Canadaのストライキも4日間で終了。この経験から、ストライキは1-2週間で終わるものと思っていたので、11週間も続いたことに驚いたのです。

サービス停止して顧客も困りますが、ストライキ中は賃金も支払われません。経済的に困窮するメンバーも多く、ストレスから潰瘍、睡眠障害、鬱などの症状が出ていると記事にあります。それでも処遇改善を求めて、まさに身銭を切って戦う姿勢を日本で見たことはありません。「サービスが停止したらお客さんに迷惑がかかる」という声が聞こえてきそうですが、十分な給与が払われていない従業員やその家族には迷惑がかかっていないのでしょうか?

日本の物価上昇に賃上げが追いつかずに生活が苦しいというニュースはありますが、最低賃金引上げやベアを待つだけで、ストライキのように自分たちで勝ち取るという意識が低いと感じます。自分勝手な行動で他人に迷惑をかけているように見えて、ストライキが社会的に認められていないからでしょうか?しかし、実力行使に出ない従業員は、経営陣にとって怖くありません。こうした記事を見るに、なかなか日本の実質賃金は上がらないだろうなと思ってしまいます。

グリーンスパン氏の自己矛盾

1987年から2006年まで19年もの間、FRB議長を務めたグリーンスパン氏が100歳で死去したというニュースが出ていました。私が大学卒業して金融業界に入ったのが2004年。まだグリーンスパン氏が現職のFRB議長でした。債券畑でキャリアをスタートしたため、金利動向を占う上で絶大な影響力を持っていました。先輩方が、彼の真意が分かりにくいFRB発言を読み解こうとしていた様子が記憶に残っています。「前回の発言とこの部分が微妙に変わっている」と議論している様子に、良く分かっていない新米の私は、80歳のオジサンの一言一言にそんなに意味があるのかな、なんて思ってました。

2006年1月に退任したので、2008年9月のリーマンショックから始まる混乱前に退任できて幸運だったと思いますが、原因を作ったのはグリーンスパン氏でしょう。彼はアイン・ランドに代表される自由放任市場主義を信奉しており、アイン・ランド本人とも交流があったそうです。その思想に基づき、デリバティブ規制強化に反対したことがサブプライムショックにつながってしまいました。私は、自由と責任はセットであるべきだと思います。つまり、自由放任市場主義を採用するのであれば、その負の側面として生じる大きな市場ショックの処理についても市場に任せるべきなのです。公的資金を投じることなく、リーマンショックのときで言えば、もっと多くの金融機関が潰れるに任せるべきだったのです。しかし、実際にはそうはならない。リスクを取りすぎた張本人の金融機関も含めて、「そんなことをしたら大変なことになる、大恐慌になるぞ」と声を上げ、公的資金を使って救済してしまうことで、「リスクを取りすぎても政府が救ってくれる」という間違った学びが定着してしまい、次の過剰リスクの種を蒔いてしまいます。

そもそもFRBが短期金利を決めるという仕組みそのものが必要なのでしょうか?FF Rate先物(Federal Funds Futures)が取引されているわけですから、市場主義なら会合を開くまでもなく、先物価格を参照すればいいだけでしょう。グリーンスパン氏は、自由放任市場主義を信奉していると言いながら、金融危機には救済措置を求められるFRBという政府機関の長を務めているという壮大な自己矛盾があります。この点、本人はどう思っていたのでしょうか。どう自己正当化していたのでしょうか。

歴代のFRB議長
Fed Funds Rateの推移

日本は老後2000万円 vs カナダは老後1.7億円?

日本では老後資金が2000万円必要と言われてから、「そんなに必要ない、いや、もと必要だ」という議論を聞きます。この数字、2019年の金融庁報告書がベースになっているようです。高齢無職夫婦は平均的に月5.5万円の赤字になっている(収入20.9万ー支出26.4万)。仮に夫65歳、妻60歳が30年生きたとすると、5.5万x12x30=1980万円という訳です。日本人男性の65歳時の平均余命は20年ですから、30年は過剰だという議論も出来ます(日本人女性の60歳時点の平均余命は30年なので、妥当な前提)が、高齢になればなるほど医療介護費がかかる点を考慮すれば、それほどおかしな計算ではないと思います。

今朝、カナダの主要新聞であるGlobe & Mailに、カナダの老後には最低でも150万カナダドル(1カナダドル115円として、約1.7億円)必要だと書いてあって、驚きました。円安効果もあってカナダの物価水準は東京の約2倍と感じますから、老後に5000万円必要というなら分かりますが、8-9倍も差があるものでしょうか?

根拠を調べてみると、カナダの数字は生活水準から逆算しているようです。一般的な70%ルールというのがあり、現在年収10万ドルであれば、リタイア後も生活レベルを維持するためにはその70%である年収7万ドルが必要だそうです。年金収入が年収3万ドルを差し引き、年収4万ドル分を自費でカバーするという考えです。資産から毎年4%を取り崩しても運用益でカバーできるという経験則から、4万÷4%=100万ドルになります。150万ドルがどこから来るのかはよく分かりませんでした。

日本の金額は、リタイア前の収入や生活水準を維持することを考慮していないこと。またカナダは長生きリスクに備えて資産100万ドルが減らない前提の数字ですが、日本は使い切って資産ゼロで死ぬ前提の数字なので、そもそもリンゴとオレンジを比べるように比較前提が違いすぎます。2019年以降のインフレ環境によって、日本の金額も20%増しくらいにはなっているでしょう。質素な生活をして資産を使い切る前提で、日本で2500万、カナダで5000万というのが最低ライン。生活水準を維持する前提では日本で5000万、カナダで1億円でしょうか。