CFAリサーチチャレンジで再認識するシンプルであることの難しさ

CFAリサーチチャレンジとは

CFAリサーチチャレンジとは、CFA協会が主催する大学生・大学院生向けの企業分析コンクールです。3~5名のチームで参加するのですが、日本大会の優勝チームはアジア大会へ、そのまた優勝チームは世界大会へと駒を進めることができる、非常にグローバルな取り組みです。今年の日本大会を例に取りますと、約20チームが参加しています。分析対象企業はヤマハ長期業績レポートはこちら)で、各チームとも10ページほどの企業価値分析レポートを提出します。レポートの評価が高かった4チームが決勝のプレゼンテーションに進むという流れです。

このコンクールの特徴は、機関投資家の実務と同じ環境が用意されているということです。ヤマハからの事業説明会には、中田社長自らが1時間の説明、2時間の質疑応答に臨まれて驚きました。内容も、アナリスト向け説明会と遜色ないものです。多忙なスケジュールから金融業界の底上げに時間を割いて頂き、本当に有り難いことです。大企業の社長と3時間も対話するなどあまりに贅沢すぎて、どれほど恵まれているのか学生の方々は分かっているのかなと思ってしまいました。ヤマハ側としても採用やPR効果も期待できるのでしょうが、学生の方々へのチャンスは確実に増えていると感じます。もう一つの特徴は、各チームにメンターとして配属されていることです。最大6時間まで、メンターに質問をすることができます。メンターの中で、私のような個人投資家は異例でして、他の方は機関投資家の要職にある方ばかりです。学生時代に金融プロフェッショナルと直に作業ができるということは、なかなか経験できないのではないでしょうか。メンター側である私も、作業後に学生や教授と食事に行くなど世界が広がり、楽しませて頂いてます。

企業分析はシンプルだから難しい

Warren Buffettは投資について、「シンプルだ。だからと言って、簡単とは限らない」と語っています。バリュー投資でやることは、企業の本質価値より割安で買って、本質価値に戻るまで辛抱強く待つ、ということだけです。極めてシンプルです。実際、私が売買をした日数は、市場が開いている日数の1/5もないと思います。ほとんどの日は、ただ待っているのです。しかし、シンプルであることは分かっていながら、ほとんどの投資家はベンチマークを超えるリターンを出すことができないのが現実です。

学生の企業分析を見ていると、私自身がCapital Groupでアナリストを始めたときのことを思い出して懐かしくなります。将来業績予想のために全ての数字が大切に思えてしまうのです。売上や原価はもちろん、従業員数、広告宣伝費、旅費交通費などなど、予想できる項目には際限がありません。まるで数字のジャングルを彷徨ううちに、方向を見失ってしまうのかもしれません。実際に自分で情報に触れて数字をいじって悩んだ先に、ようやくシンプルさに到達できるように思います。たくさん迷うことは、シンプルさに到達するために必要なステップだと思います。苦労してつかみ取ったシンプルさがあるからこそ、市場価格の変動にも自信をもって株式を保有し続けることができるように思います。少なくとも、自分の経験ではそうでした。Capital Groupの場合、セクターの立ち上げにほぼ1年間の猶予がありました。よくもまあ、給料を払って長い間迷わせてくれたものだと思いますが、1人で悩み考える時間がたっぷりあったからこそ、投資家として成長できたのだと思います。その機会をくれたCapital Groupにはとても感謝しています。

ほとんどの投資家は、数字のジャングルで迷う経験をしていないのではないでしょうか。雑誌や掲示板など、他人の意見を参考にすることはとても大切です。何でも自分でやろうとする私には足りない資質です。しかし、他人の意見を検証することなく採用してしまうと、市場価格が下がったときに保有し続ける自信が持てるでしょうか。買い推奨していた人たちも、株価が下がってくると声が小さくなってしまうのがよくあるパターンです。投資では、企業の本質価値以外に助けてくれるものはありません。

一番大切なことを見極める

企業の本質を見抜く上で、社長が自分と自分の会社を診断する本―誰も言ってくれない自分と会社の盲点と欠点を探るという本がお薦めです。最初の項目は、『あなたの会社の存続と成長を保証してくれる最も重要なものは何か』の質問に、あなたはハッキリと確信をもって答えられるか、です。投資家(株主)にとっても、投資先企業は「あなたの会社」ですから、この質問が一番大切だと思います。

会社や事業にとって本当に重要なポイントは多くても2,3しかありません。そのポイントを外すと、人件費や宣伝費や他のポイントを正しく予想できたとしても、正しい企業価値を算出することはできません。数字のジャングルを見通すことは難しいですが、自分の見通しが正しく、また結果として株価が上昇したときの嬉しさは格別です。その感覚を何度でも味わいたくて、今日も四季報をめくります。

Happy Investing!!

CFA証券アナリストになって良かったこと

CFA証券アナリストとは?

CFA証券アナリストは、アメリカ発祥の資格です。1947年に生まれた資格で、現在では世界137か国に約13万人の資格保持者がいるそうです。金融業界とくに運用業界において、国際的な資格として認知されています。

日本では、約1500名の資格保持者がいるそうで、年間100名ほど増えています(私が合格した2016年の日本の合格者は88名でした)。日本で一般的に知られている証券アナリスト資格の合格者が年間1000名以上であることを考えると、まだまだ認知度が低い資格です。

なぜCFAを取得したのか?

2006年に1次試験合格

2006年にキャピタル・グループに入社した際、まったく資産運用経験のなかった私は上司にCFAを取得するよう言われました。同僚のほとんどが、MBAかCFA資格を保持していたからだと思います。私は2006年12月の1次試験に合格しましたが、その後の2次、3次試験は受験しませんでした。上司には「1次試験に合格しました」とだけ報告して、あとは黙っていました。上司はCFA資格を持っていなかったので、そもそも3次試験まであることすら知っていたのか怪しいものですが。このような生意気な態度をとっていた理由は、CFAの内容にあります。CFAを取得したからと言って、運用能力が向上するとは思えなかったのです。確かに試験勉強は大変ですから、①勉強に耐えることができる、②一定の知的水準をクリアしている、③英語力がある、という判断基準にはなると思います。しかし、外資系運用機関の従業員は、既に①~③が出来ているから職を得ることができたわけで、いまさらCFA取ってどうするのという気分でした。

2016年に3次試験合格

2014年に個人投資家として資産運用を再開しました。Warren BuffetやCharlie Munger、Mohnish Pabraiの考えを読むにつれ、自分の資金を預けたくない投資信託を顧客に販売することはできない、自分の納得いく運用スタイルを探したい、と理想は高くなりましたが、果たしてうまくいくものか不安もありました。機関投資家時代の成功は、組織の力があってのものではないかという疑念が常にありました。個人投資家として失敗した場合に少しでも再就職の可能性を高める方法として思いついたのが、CFA資格を取得することだったのです。こうして、最初の受験から10年も時間がかかりましたが、無事に合格することができました。

CFAの価値

CFA資格の維持には年会費がかかります。年4万円くらいです。会社員であれば、CFA取得者を雇用している会社側にも箔がつくというメリットがあるので、経費で落とせるのでしょうが、個人投資家の立場でこの費用を払うべきかは悩ましいところです。合格してから1年間お試し期間で会員資格を使ってみた結果、有料であっても加盟するメリットがあると思っています。日本CFA協会は、試験対策やセミナー企画、大学生向けにCFAリサーチチャレンジなど、様々なイベントを運営しています。興味のあるセミナーに参加し、リサーチチャレンジにもボランティアとして参加させて頂きました。これらを通して、運用業界の方々と知り合うことができたのが、何よりの収穫です。キャピタル・グループに在籍していたころは、企業調査とは自分1人で行うもので、他のセルサイドや運用者と交流することは百害あって一利なしかのように極端に考えていました。自分の世界を狭くしてしまったことも、機関投資家生活を長く続けられなかった理由の一つかもしれません。

これからもブログ発信、セミナー開催と並んでCFAの活動に関わりながら、少しでも運用業界の発展に貢献できれば嬉しいです。ボランティア2年目となりましたCFAリサーチチャレンジは、現役大学生の方々がファンダメンタル投資に触れる素晴らしい企画です。また次回に紹介したいと思います。

Happy Investing!!

買い物リストのすゝめ

買物リストのすゝめ

2017年3集・夏号

私は次の手順で企業調査を行っています。

① 四季報を通読して、興味のある会社を書き出す。
② 書き出した会社につき、一社づつ調べていく。
③ 事業内容を理解でき、企業価値を算出できる企業について、買い物リストに載せる
④ 新しい四季報が発売されると、また①から繰り返す

9月15日(金)の四季報秋号の発売を前に、滑り込みセーフで夏号の①~③が完了しました。今回は、興味を持てた会社が約450社。そのうち228社が買い物リストに載りました。

Lauren Templetonのアドバイス

グローバル・バリュー投資の父ともいわれる、John Templetonの姪にあたるLauren Templetonさんが動画で買物リストの効用について語っています。市場暴落時には買い物リストを取り出し、買い向かうのだそうです。あらかじめ買い物リストを用意しておくことで、慌てることなく行動することができるそうです。私はまだまだ経験が足りず、買い物リストを用意して割安であることが分かっていても、「もっと安くなるかもしれない」などと欲を出して行動が遅れてしまいます。買い物がリストがなければ、もっと出遅れているのかもしれません。素直に行動できるようになりたいものです。

Eric Cinnamondのアドバイス

中小型株で絶対リターンを目指す投資を行っている方を取り上げたポッドキャストです。この中で、Ericさんも米国企業200~300社の買い物リストを常にアップデートしていると語っています。

買い物リストを見て思う事

時価総額

時価総額別に見てみると、以下のようになっていました。

私の買物リストには大企業から超小型企業まで万遍なく含まれているようです。一方、全上場企業3,725社に対しての買い物リスト掲載率は6%でした。時価総額1000億円以上の大企業に関しては全上場企業の10%という掲載率で安定していますが、小型株になると企業間のバラつきが大きく、掲載率が下がってしまうようです。

割高・割安

私が考える適正価格からの乖離幅ですが、割高な企業が約100社。割安な企業が約130社。私は、Benjamin GrahamやMohnish Pabraiに倣って大きな安全域を求めています。基本的に、適正価格の半額以下でしか購入しません。そのような投資チャンスは、現在7社くらいしかないように思います。

「せんみつ」とはよく言ったもので、1,000社に3社くらいしか投資に値する会社はないということです。これはという投資チャンスはなかなかないものですが、また淡々と四季報秋号に向き合っていきたいと思います。

Happy Investing!!

2017年4集・秋号

貴重な失敗例に学ぼう:江守HD(9963)

株式は紙切れになる?

株式は紙屑になるかもしれないから株式投資は危ない、と言う人がいます。タカタや東芝など大企業の不祥事や倒産は大きく報道されるので、そういう印象を持ってしまうかもしれません。では、ここで質問です。2015年に上場廃止になった銘柄は何社あったでしょうか?Wikipediaによると、答えは以下の通りです。

東京証券取引所

名古屋証券取引所

  • オプトロム(2015年10月1日、セントレックス 7824)上場契約違反等

東京証券取引所で8社、名古屋証券取引所で1社、合計9社です。2014年末の上場企業数が約3500社であったことを考えると、1年間の間に株式が紙切れになった確率は0.3%です。景気状況によっても違うでしょうから厳しめにみて、10年間でも平均0.5% x 10年=5%程度ではないでしょうか?個人的にはあまり高いとは思えないのですが、いかがでしょうか?

貴重な失敗例から学ぼう:江守HD(9963)

株式が紙屑になることを心配するより、貴重な大失敗例から学ぶ方がお得だと思います。99%以上の企業が倒産しないなか、どうすれば倒産できるのか?

第1回としまして、江守ホールディングスを取り上げたいと思います。民事再生手続きを経て興和グループに譲渡され、現在は江守商事株式会社として興和グループ出身の市川哲夫社長の元で再出発を図っています。江守商事のホームページはありますが、過去の決算資料など都合の悪い情報を会社から公開することはありません。しかし、上場廃止になった企業も含めた決算資料を株主プロで見ることができます。株主プロを運営する有報データマイニング社のみなさん、本当にありがとうございます!

そして、上場廃止になった企業の株価はヤフーファイナンスなどからは見れなくなります。そこで、株ドラゴンというサイトがお薦めです。

決算情報

【参考リンク 】 江守HDの長期業績レポート

売上・利益やROE・ROAを見ている限り、江守HDは素晴らしい会社に見えます。中国事業の急拡大によって、順調に業績を伸ばしているようにみえます。

 

しかし、営業キャッシュフローには危機の兆候が表れています。

2010年3月期までも営業CFは赤字と黒字を繰り返し、そもそもキャッシュ管理の甘い会社だったことが分かります。しかし、それまで多くても±20億円だった営業CFが、2011年3月期から60億円以上の赤字に急拡大します。売上が急激に伸びたからという説明になるのでしょうが、商社というビジネスモデルを考えてみましょう。

① 在庫を仕入先から購入する。代金は買掛金で後払い。
② 顧客に在庫を販売する。代金は売掛金で後日回収。
③ 仕入先に支払う。買掛金がなくなり、現金が減る。
④ 顧客から代金を回収する。売掛金がなくなり、現金が増える。

以上、①~④をグルグルと繰り返すことになります。③と④の間に時間差があることが多いので、この間の運転資金需要が生まれることは理解できます。

では、問題の2010年3月期~2011年3月期のバランスシートを見てみましょう。

いかがでしょうか?何か気になる点はありましたか?

私は、上記①から④の事業サイクルを回しているはずなのに、売掛金、在庫、買掛金の伸び率にばらつきが気になりました。

売上  659億円 > 953億円 +44%
売掛金 182億円 > 248億円 +36%
在庫  26億円 > 40億円  +53%
買掛金 107億円 > 127億円 +18%

売上、売掛、在庫の伸びは+40%内外で理解できます。在庫も将来の成長を見越して多めに保有していると考えることもできます。ですが、それに対して買掛金の伸びが低すぎます。顧客からの代金回収は今まで通りでありながら、仕入れ先には早く支払い行っているということです。これでは、キャッシュが必要になってしまうことは容易に想像がつきます。

この状態が単年度で是正されればまだしも、4年間も続くという事は異常です。営業キャッシュフローは特殊な業界(例:分譲住宅)を覗いて黒字であることが当たり前です。そもそも、赤字と黒字を繰り返していたことが経営陣によるキャッシュ管理の甘さを表しています。管理の甘さが、中国法人の責任者による架空販売を許す土壌をはぐくんでしまったのだと考えます。

江守HDの教訓

キャッシュフローは会社にとっての血液です。利益は出なくても会社は死にませんが、キャッシュがなくなれば確実に死にます。利益の伸びを考える前に、まず長期的な営業キャッシュフローの推移を確認することが大切だと思います。その事業は、(競合他社と比較して)普通はどの程度の運転資金が必要なのでしょうか?それに対して、調査対象企業のキャッシュ管理は優れているのか・劣っているのでしょうか?

サルも木から落ちる

江守HDの大量保有報告書を見ると、フィデリティという有名機関投資家が2013年から大株主であることが分かります。これまで見てきた通り、既に2011年3月期に問題の兆候が見えていましたが、売上や利益の拡大が魅力的に感じてしまったのでしょう。有名機関投資家でも、こうした間違いがあるという一例です。ご参考まで。

Happy Investing!!

エンジェルジャパン・アセットマネジメント社のご紹介

2017年8月末の投資信託クローニングレポート

私は毎月末に、過去5年、10年間の運用成績が良かった投資信託の保有上位企業を観察しています。

【参考リンク】長期的に高い運用実績を残している投資信託の保有銘柄アップデート

実績を残してきた投資家の考えを知ることができ、なぜこの企業を買ったのかを考えることは勉強になると思います。ご参考までに、2017年8月末に作成した資料を添付しました。

【参考リンク】2017年8月の投資信託クローニングレポート

中小型株に特化した投資信託は足元絶好調

9月4日時点で、日経平均のリターンが年初来+2%に対してJASDAQのリターンは年初来+24%を超えています。日本の大型株に対して、中小型株の大幅なアウトパフォームが続いています。投資信託クローニングレポートを見ても、過去5年のリターンが年率+40%を超えるものも散見されるなど、絶好調以外の何物でもありません。ちなみに、100円の元本を年率+40%で5年間投資できたとすると、5倍以上に増えています。素晴らしい成績です。

景気後退局面を含めた過去10年のリターンに注目

しかし、より注目したいのが過去10年のリターンです。なぜなら、リーマンショックなど景気後退局面を含んでいるからです。投資家の中には、上げ相場に強い人もいれば、私のように保守的で下げ相場に強い人もいます。どちらに偏ってしまっても、景気サイクルを通して高いリターンを上げることは難しくなります。過去10年のリターンが高いということは、攻守のバランスのよい投資家ということができます。

私は、10年以上の長期に渡って高い複利運用を達成することを目指しています。私にとって参考にすべきは、こうした長期リターンの高い投資家です。

10年リターン首位は、SBI中小型割安成長株ファンドジェイリバイブ

モーニングスターで以下のようなスクリーニングを行いました。SBI中小型割安成長株ファンドが年率+16.41%でぶっちぎりのトップです。2位とは年率3%も開きがあります。年率3%というと大したことないような気がするかもしれませんが、投資の世界では気が遠くなるような差です。100円を投資したとすると、年率+16.41%であれば、10年後に457円。年率+13.65%であれば、10年後に359円に増えています。どちらも満足いく結果には違いありませんが、年率3%の差を積み重ねる大きさを実感してください。

首位の投資信託を運用しているのは、エンジェルジャパン・アセットマネジメント社

首位のファンドはSBIという名前がついていますが、私はかねがね、なぜSBI証券にこのような優秀な運用能力があるのだろうかと不思議に思ってきました。今回、このファンドはエンジェルジャパン・アセットマネジメント社の投資助言を受けていることを知りました。

エンジェルジャパン・アセットマネジメント社は1981年から未公開株、中小型株調査に従事している宇佐美さんが2002年に設立した会社です。1981年と言えば、私が生まれた年です。私の人生と同じだけの時間を株式調査に充てられてきた宇佐美さんの継続力に頭が下がります。これだけ長く中小型株をカバーしている方は日本にいないでしょうし、宇佐美さんも対談のなかで、現在の上場企業の半数以上をIPOから見てきたと語っています。日本電産の永守さんや、ソフトバンクの孫さんなど、今を輝くカリスマ投資家も、IPOの過程で宇佐美さんとお会いしているそうです。まるで日本の株式市場のゲートキーパーのような方です。

エンジェルジャパン社の投資チームは4名(2017年7月から5名になるそうです)。うち3名は、2002年の創業時から15年間一緒に投資を行ってきたチームということです。少数精鋭、高い人材定着率で高い運用成果を残している機関投資家が日本にもいたんですね。こうした大先輩の存在を知ることで勇気づけられますし、高い目標に向かってまた頑張っていこうと思いました。エンジェルジャパン社の皆さま、ありがとうございます。

【参考リンク】モーニングスター社と宇佐美社長の対談
【参考リンク】エンジェルジャパン社、2017年新年の挨拶

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金融資産の3分類

金融資産を3つに分類すると理解しやすい

ここ半年ほど、月1回投資セミナーを開催してきました。複利効果やiDeCo制度を利用した積立投資など、投資の基本を説明しています。セミナーで勘違いしている方が多いと感じたので、金融資産の3分類について書いてみます。

投資目的(将来より多くの購買力を獲得する目的)で購入する金融資産にはどのようなものがあるでしょうか?色々あると思うのですが、私は下のように分類すると理解しやすいと思っています。

タイプ1:国債、銀行預金、社債

タイプ2:金、原油、美術品、現金

タイプ3:株式、不動産、農地

3分類の特徴

私は、どんな金融商品であっても、即座に3分類に当てはめることができます。さて、どのような基準で分類されているのでしょうか?

答えは、キャッシュフローです。キャッシュフローを書いてみると、各分類の特徴がよく分かると思います。

タイプ1

5年10%という社債を100円購入した場合のキャッシュフローを考えてみましょう。まず、投資した時点では100円のアウトフローです。そして、毎年10円(100円 x 10%)の利息収入があります。5年目には、利息収入と元金合わせて110円が払い戻されます。下図のようになります。

タイプ1は、購入時点で将来のキャッシュフローが契約で決まっている金融商品になります。ただし、契約で決まっているからと言って、会社が倒産すれば融資は焦げ付きますし、必ず守られる訳ではありませんのでご注意ください。

タイプ2

金に5年間投資することを考えてみましょう。100円分の金を買ったとして、1年後に何か起こるでしょうか?ポイントはキャッシュフローについて考えることです。金は相変わらずピカピカしていますが、キャッシュフローはありません。2,3,4年後にもキャッシュフローはありません。そして5年経って売却するときに返ってくる金額は、そのときの金相場次第です。大きな値上がりも期待できる一方で、損失の可能性もあります。

タイプ2は、期中にキャッシュローが発生せず、売却時の価格も決まっていない金融商品です。

タイプ3

ある企業の株式に5年間投資することを考えてみましょう。一株100円で購入したとすると、キャッシュフローはどうなるでしょうか?株式は会社の一部なので、会社全体のキャッシュフローを考えてみましょう。事業内容によってキャッシュフローの発生タイミングは違いますが、例えば飲食業や小売りであれば、毎日のようにキャッシュフローが生まれます。一方、建築業界であれば、キャッシュフローの発生回数は少なく大きくなるでしょう。図にすると次のようになります。

タイプ3は、投資期間中にキャッシュフローはあるが、その発生タイミングや大小は分からない。また、売却金額も分からないという金融商品です。

長期投資に適した金融資産はどれか?

さて、上記の3分類のうち、長期投資に適したタイプはどれでしょうか?ちょっと考えてみてください。

(考え中)

(考え中)

(考え中)

セミナーで同じ質問をすると、多くの人が「タイプ1」と答えます。私もそう思っていましたし、日本では「お年玉は預金しなさい」と言われたように、タイプ1の金融商品が奨励されてきたように思います。投資時点で全てのキャッシュフローが確定しているので、安心感があるのでしょう。

しかし、例えば現在の日本では、10年国債の金利は0.05%を下回っています。10年間0.05%のリターンを確定させることが果たして良い投資行動なのでしょうか?私にはとてもそうは思えません。つまり、キャッシュフローが確定しているということは、確かに不確実性は減少しますが、同時に「低い」キャッシュフローもロックインしてしまう危険があるのです。

逆に、タイプ3はどうでしょうか?キャッシュフローも投資期間満了時の価格も分からないことから不確実性の塊です。しかし、果たしてそうでしょうか?日本のほとんどの人は、会社員であれ自営業であれタイプ3型のキャッシュフロー特性を持つ組織に属しています。そして、日々売上を上げ、コストを抑えることで利益を出すために頑張って仕事をしています。つまり、正確なキャッシュフローは確かに分からないのですが、上げようという自助努力があるのがタイプ3の金融商品です。私は、5年後のキャッシュフローが今よりも増えているであろう会社を選び出す自信がありますし、世界経済全体を考えたとしても、世界の企業全体が稼ぎ出すキャッシュフローが5年後に増えている可能性は高いと思っています。つまり、タイプ3の未来は不確実ですが、同時にアップサイドを得ることができるのです。

長期投資に適した金融資産の順番は、

タイプ3>タイプ1>タイプ2 となります。

アメリカの事例から

次のチャートは、アメリカの金融資産に長期投資(84年間)した場合のリターンです。大型株式は年率9.9%(インフレ調整後で6.9%)に対して、10年国債のリターンは年率5.5%(インフレ調整後で2.5%)に過ぎません。年率4.4%しか違わないのであれば、不確実性の少ない国債を選ぶと考える読者も多いかもしれません。確かに、1年などの短い投資期間でみればそれは正解かもしれません。しかし、数十年に渡って複利効果を続けると、大型株式であれば1ドルが3000ドルに増えたところが、長期国債では93ドルにしかなっていないという、30倍もの差がついてしまいます。これが複利効果の威力です。

Happy Investing!!

砂漠に咲く花を求めて

砂漠に咲く花を求めて

投資で稼ぐために必要なことは、「将来の価値 > 市場価格が織り込んでいる価値」 となることです。例えば、PER240倍以上で取引されているAmazonは、最低でも今後10年間は年率20%成長が続くという前提(1.20% ^ 10yr = 約6倍なので、10年後のPERが40倍に低下する) を織り込んだ市場価値になっていると感じます。

仮にAmazonが今後10年間、年率15%成長(約4倍)を達成した場合、普通の企業にとっては夢のような好成績でも、Amazon株の価値は下落する可能性が高いと思います。年率15%という現実が、年率20%という期待値を下回ってしまったからです。

期待値の低い業界を探そう

多くの投資家は、業界の期待値と企業の期待値を同じものとして捉えがちです。確かに、ここ数年の建築業界のように多くの企業が追い風の恩恵を受けている場合もあります。また、原油価格が値上がりすれば、電力会社はどこも燃料価格の高騰で苦しみます。

しかし、稀に見通しが悪いと一般的に思われている業界に勝ち組企業が現れることがあります。業界の見通しが悪い=企業への期待値も低い ことから、大きく儲けるチャンスになることがあります。私の前職キャピタル・グループには、この投資戦略の達人がいました。

事例1:ワインの栓に使うコルク業界が苦しんだ時期があります。原因は、オーストラリア産ワインなどが、プラスチック系やスクリューキャップを使い始めてコルク需要が減少>価格下落したためです。こうした事業環境で起こるのは、淘汰による寡占化です。結局、コルク栓を作っていたトップシェアの会社は、より大きなシェアを獲得し、結果的に価格決定力も強くなるというおまけまで付いてきました。コルク業界は全部ダメだ!と見境なく売られていく環境で、冷静に個別企業を見極められるかがポイントになりそうです。

事例2:アメリカの住宅と言えば絨毯が定番でしたが、いつしかフローリングが流行しました。すると、コルクと全く同じことが起きました。絨毯の需要が減少>価格下落によって、業界再編が起きたのです。こうなると体力勝負なので、たいていはトップシェア企業がより強くなって帰ってきます。

狙うべき業界のポイント

どんな業界でも苦しんでいればよいというわけではありません。特に望ましいのは、プレーヤーが多く寡占化が道半ばであることです。トップ企業が10%シェアであれば、将来的に25%になることで、市場縮小を跳ね返すイメージは持てます。しかし、既に50%以上のシェアを獲得している企業であれば、業界縮小の影響をシェアアップで挽回する余地は残されていません。

私は、このような業界を常に探していますので、見つけたらすぐにご連絡をお待ちしています。一緒に投資アイディアについて考えましょう。

Happy Investing!!

 

IRフェアのすゝめ

名証IRエキスポ2017に行ってきました

7月21、22日に、名証IRエキスポ2017が開催されました。私は7月22日(土)に行ってきました。旅費と時間を節約しようと夜行バスを利用した(3800円 vs 新幹線は金券ショップで11000円)のですが、名古屋は距離が近すぎて6時間も眠れない上、2回のサービスエリア休憩でも目が覚めてしまうので安眠の工夫が必要ですね。夜行バスには、4列シート、4列ゆったりシート、3列独立シートなど椅子の配置パターンがあります。今回はちょっとリッチな気分で4列ゆったりシートを選びましたが、やはり隣の人次第で眠りの質が変わります。次回は、安眠対策+3列独立シートしたいと思います。

そんなことより、IRエキスポの話でした。名古屋証券取引所には292社が上場していますが、そのうち95社もの企業がブースを出してくれていました。貴重な週末にありがとうございます。こうしたIRフェアは、社員の方々に直接話を聞くことのできる貴重な機会です。決算説明会や株主総会で登壇する社長や役員の方は、対外的に話をすることに慣れています。現実をよりよく見せる話術に長けていることが多いですし、社員を鼓舞するためには夢を語る能力は重要でしょう。しかし、投資家としての私は等身大の企業の姿を見たいと考えます。そのために一番良い方法は、会社訪問だと思います。例えば、みなさん他人の家に行くと感じる雰囲気があると思います。会社も同じようなもので、会社訪問を重ねると社風を肌で感じられるようになります。ただし、会社訪問は個人投資家の立場では難しいのが現状です(私が難しいと思い込んでいるだけかもしれません)。そこで、代案としてIRフェアをおすすめします。特に普段IRを担当していない社員の方は、よい意味で素朴に質問に答えてくれます。投資対象企業について、財務資料、経営者、社員、競合他社、サプライヤー、顧客、ニュース、書籍など、多面的な意見を集めることでより立体的な姿が浮かび上がってきます。何より、企業をより深く理解できたと感じるときは満足感があります。さらに、自分の理解が正しくその見通しに基づいて株式投資で稼げた時など、中毒的な嬉しさがあります。こうして株式投資ジャンキーになっていくのでしょう。

IRフェアに行ってみませんか

以下、1年を通した主なIRフェアです。是非、足を運んで投資対象企業の社員の方々に話を聞いてみてください。私にとっての株式投資は、株券という紙きれを売買するものではなく、株式会社という生き物を売買するものだと思っています。会社には、当たり前ですが生身の人間が働いています。どんな人が働いているのか?働いている人はどこに満足しているのか?どこに不満を感じているのか?興味を持つほどに会社のことが良く分かりますし、分かってくると楽しいですし、結果として運用成績も向上するのではないかと考えています。Happy Investing!!

2月 東証IRフェスタ

7月 名証IRエキスポ

8月 日経IRフェア

12月 野村IR資産運用フェア

株主総会雑感

株主総会が6月に集中する理由

上場企業への投資家にとって毎年5,6月は忙しいです。3月末決算の企業が多い日本では、本決算が5月に発表され、株主総会が6月に開催されるからです。株主総会は決算日から3ヵ月以内に開催することがルールなので、3月末決算→6月下旬の株主総会 となるのです。

2017年はこれまで3社の株主総会に出席

2017年は、今のところ12月決算の会社1社(総会は3月)と、3月決算の会社2社の計3社(総会は6月)の株主総会に出席しました。同じ株主総会と言っても企業によって違いがあり、定性評価のための貴重な情報源だと思っています。

① 日本管理センター@東京国際フォーラム

株主からの活発な質疑応答が印象的。10人以上質問していた。CFOの方は、「ここ数年は株価が伸び悩んでいるが、弊社の株主からは株価についての質問が一切出ないのでありがたい」とコメント。株主総会では、会社説明会で良く顔を見かける個人投資家の方も複数出席しており、事業内容をよく調べ理解している真面目な個人投資家が多い印象を受ける。総会後は立食形式で経営陣との懇親会。経営陣とはろくに話さず、食べ物にむらがる株主(主に高齢者)が多いのは残念だが、直接経営陣の方々とお話しする機会を作ってもらえるのは嬉しいし、オープンな社風を感じます。お土産はなし。

② トランコム@名古屋

ヤマトの業績下方修正からの値上げ要請など、ニュースの多い物流業界の企業。業績は伸び悩んでおり、心配する株主から活発な質問が出ると期待して名古屋まで出かけました。200人以上参加した総会でしたが、なんと質問は3回だけ。そのうち2回は私で、残り1回は、取締役の選任について「みなさんから一言づつ」という質問とは言えない内容。あまりに質問が出ないことに逆に自分が驚いてしまい、質問をしてはいけないかのような場の空気に負けて2回で質問を止めてしまったことが反省点でした。私が2回目に質問している最中には、おじいさん達が周りに聞こえるような声で私語を始める始末で、株主の質が低いと感じざるを得ません。なぜ質問もする気がない株主が大量に出席しているかと言うと、「お土産」がもらえるから。今年はバームクーヘン。多くの株主は、バームクーヘンをもらってさっさと家路に着きたいのでしょうか。それなら、お土産だけもらって参加せずに帰ればいいのに。私は、業績を上げて株価を上げることでリターンを得るという株式投資の王道に興味を持たない株主を集めてしまう、株主優待とお土産が大嫌いです。

③ エイジス@幕張

棚卸サービスを提供する会社。本社が幕張駅から遠い上に、ボロくてビックリしました。取引先だったスーパーが閉店したところを、居抜きで本社にしたとか。徹底したコスト意識を体感できます。そんな会社ですから、もちろん総会のお土産はなし。つまり総会に出席する株主は事業に興味がある人だけです。質問もまともな内容が6問ほどあったでしょうか。帰り道に20年以上も株式を保有しているという株主の方と長話できたことが嬉しかったです。会社の歴史を良く知る方で、勉強になりました。

まとめ

いかがでしょうか?たった3社の株主総会でも、これだけバラエティに富んでいます。是非、株主総会に足を運んでみてください。自分の五感を総動員して、社風や集まっている株主の様子を観察してください。そして、「この人たちと同じ船に乗り続けたいのか?」と自問自答してみてください。数字を超えて企業を生き物として感じられるようになるので、楽しいですよ。

Happy Investing!!

日経平均採用企業の長期業績から見えること

2002~2016年まで14年間の投資リターン

【参考ファイル】日経平均採用銘柄長期リターン

2016年11月に日経平均採用225社の長期業績レポートをまとめ始め、先週ようやく終了しました。225社の中には合併した企業もありますので、15年間の業績を比較できる企業は195社ありました。

例えば3月決算の会社であれば、2002年3月末に購入して2016年3月末まで14年間保有した場合(配当再投資)のリターン分布は以下の通りです。平均値は年率4.7%、中央値は年率4.8%でした。しかし、日経平均の同期間のリターンは年率3.0%と大きく劣後しています。これはどうしてでしょうか?

14年投資リターン(配当再投資)分布

理由の一つは、日経平均には配当が含まれていないこと。二つ目には、日経平均は構成銘柄の平均値ではなく、株価の絶対水準によって構成比重が決まっていることも関係しています。例えば、ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)の株価は36000円と絶対水準が高いため、225社の一つに過ぎないにも関わらず、日経平均における寄与度は8%以上もあります。逆に時価総額ではトップのトヨタ(7203)の寄与度は2%しかありません。

出典:PRESIDENT Online

投資リターントップは楽天だが、採用時期が遅すぎた

投資リターン上位と下位の10社をみてみましょう。1位は楽天で、14年間のリターンは21倍と素晴らしい数字です。しかし、日経平均に採用されたのは、高成長が終わった2016年になってからでした。日経平均に採用されるということは、大企業になったということです。しかし、残念ながら日経平均採用後も高成長を続けることができる企業はほんの一握りです。

楽天の株価(出典:kabutan.jp)

売上成長率は平均年間3.1%。今後はもっと下がるだろう。

次に、日経平均採用企業の長期売上成長率を見てみます。14年平均年率10%以上で売上を伸ばせた会社は8社しかなく、平均値は3.1%、中央値は2.5%です。GDP成長率は上回っていますが、これが大企業の実態です。今後は人口減少からますます需要が減少するでしょう。その中で、日経平均採用企業の売上成長率は1%台に低下すると考えるのが妥当ではないでしょうか。高い成長率を想定して企業へ投資する際には、根拠を確認する必要がありそうです。

成熟企業といえば株主還元するはずが・・・

成熟企業の売上成長率が低いのは仕方がないことです。業界内でカッコたる地位を築き、シェアも高いことから競争が限定的で潤沢なキャッシュフローを創出し、そのキャッシュフローを株主に還元してくれればいう事はありません。株主還元の手法と言えば、配当と自社株買いですが、現実はどうなっているのでしょうか?

下に株数の変化をグラフにしました。平均値が年率-1%ということは、年に1%づつ発行済み株式数が増えたということです。リーマンショックを挟み、安い株価を利用して自社株買いをしたいところでしたが、逆に本業が痛んでしまった企業が多く資本調達に追われてしまった様子がわかります。

まとめ:日本の大型株への投資は難しい

日経平均採用企業は、日本を代表する225社です。私であれば、こうした大企業は成熟企業なので高い成長率は求めません。代わりに、潤沢なキャッシュフローを元にした、株主還元に投資リターンの源泉を求めます。

しかし、長期業績レポートをまとめて改めて感じることは、株主還元が上手い会社は非常に少ないということです。日本の経営者の多くは叩き上げとして、社内で頭角を現して出世します。ある特定事業のオペレーションには精通しているかもしれませんが、経営者の最大の仕事は限りある資本をどのように分配するかということです。資本配分の訓練や経験のある経営者が日本には少ないため、株主還元の巧拙が投資リターンを決定付ける成熟局面での日本大型株リターンは低くなってしまうように感じます。

改めて日本の大型株への投資は難しいなと感じました。個人投資家の強みである資金量の小ささを活かすべく、時価総額の低い企業群の開拓を続けることになりそうです。

Happy Investing!!