長期業績レポート(オークマ、アマダ)

長期業績レポート

6103 オークマ
6113 アマダ

日経225採用企業の長期業績レポート一覧

メモ

今回の長期業績レポートで取り上げた機械セクターの2社は、工作機械メーカーです。

工作機械とは何か

現代生活は、自動車など金属製品に囲まれています。プラスチック製品も多いじゃないかと思われるかもしれませんが、金属の金型に樹脂を流し込んで作っているので、やはり金属加工が必要になります。

工作機械は金属を加工するための道具です。機械を作るための機械であることから、「マザーマシン」と呼ばれることもあります。普段の生活で目にすることはありませんが、工場で大活躍して現代生活を支えてくれています。

旋盤工
(c)MASAAKI HORIMACHI/SEBUN PHOTO
出典:amanaimages

金属を加工すると聞いてイメージするのは上の写真のような旋盤工かもしれません。しかし、手作業では大量生産に限界があります。

そこで、1970年代からNC(数値制御)できる工作機械が主流となりました。パソコンのようなディスプレイが付帯された下のような工作機械です。

Image result for オークマ 工作機械 写真
出典:名古屋大学

需要の変動が大きい

みなさんが製造業の経営者だとして、どんなときに工作機械を買いたいと思うでしょうか?そんなに壊れるものではないので、工場の新設や増設のときが多いと想像できます。では、どんなときに工場の新設や増設をするでしょうか?景気の良いときです。つまり、工作機械の需要は景気の影響を強く受けてしまいます。

オークマの連結売上高
オークマの一株利益(EPS)

上にオークマの売上高とEPSの推移を長期業績レポートから抜粋しました。リーマンショックの前後では、売上が2008年3月期の2140億円から、2010年3月期には600億円まで、2年で70%も減少してしまいました。外部環境の影響が大きいので、経営するのが大変そうです。

景気サイクルのどこにいる?

工作機械メーカーへの投資には、景気サイクルの見通しが不可欠です。売上やEPSの動きを見ると、景気のピーク近くで投資すると確実に損をすることが想像できます。現在は景気サイクルのどこにいるのでしょうか?収益は2010年3月期を底に、6年間拡大局面が続いてきました。

2017年3月期には減収減益の会社予想が発表されていますが、まだまだ黒字です。過去2回の景気後退局面では、工作機械メーカーは軒並み赤字に陥りました。今回は違うのでしょうか?

Happy Investing!!

 

長期業績レポート(日本製鋼所)

長期業績レポート

5631 日本製鋼所

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メモ

日経平均の機械セクターは16社

今回から、長期業績レポートは機械セクターを扱っていきます。日経平均には機械セクターから、次の16社が採用されています。

私は2006年から2009年まで、キャピタル・グループという機関投資家のアナリストとして、機械セクターを担当していました。どの企業も、IR取材、経営陣への取材、工場見学など思い入れの深い企業です。

日本製鋼所の思い出

原子力ルネサンス

2007年ごろ、投資の世界では「原子力ルネサンス」という言葉が流行っていました。中国を中心とする新興国の経済発展によってエネルギー需要が高まるなか、原油の生産が頭打ちになるという「ピークオイル」説と相まって、原油価格は1990年代末の1バレル$20から$100以上に高騰していました。膨大なエネルギーを賄えるのは原子力発電しかないという論理展開で、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故や1986年のチェルノブイリ原発事故以降は新設が減っていた原子力発電所が再び増えるという見通しだったのです。2006年の東芝によるウェスティングハウス買収も、このような時代背景に後押しされて行われたのでしょう。

WTI原油価格(出典:macrotrends.net)

ヤカンを作れるのは誰か?

出典:三菱原子燃料(株)

原子力発電所の仕組みそのものは単純です。原子力発電にはPWRとBWRという2種類ありますが、要は膨大な核分裂エネルギーを制御してお湯を沸かし、蒸気でタービンを回して発電します。バカでかいヤカンのようなものです。圧力容器と言われるこのヤカン、福島原子力発電所事故で耳にした方も多いと思います。

鍛造中の写真(出典:日本製鋼所)
鍛冶屋も小規模で鍛造中(出典:worldfolksong.com)

問題は、そんなバカでかくて危険物質を中に入れることができるヤカンを作ることです。そんな世界でも数社しかない技術と経験を持っているのが、日本製鋼所です(製品リンク)。作り方はいたって原始的です。鍛冶屋が熱した金属棒をトンカントンカンやって包丁を作ったのと原理的には同じですが、これまたバカでかい規模で行います。14000トンのプレスを使って、チェーンで大型鋼塊をグルグル回しては叩いていきます。

このように、我々の生活を支えてくれていながら、まず目にすることのない光景や人々に触れることができるのは投資の醍醐味だと感じます。工場見学を行っている企業も多いので、是非参加をお薦めします。身近なものがどうやってできているか知ると目から鱗のことが多いです。

投資と政治リスク

福島原子力発電所の事故は、日本製鋼所の作った圧力容器の問題ではなく、「原発安全神話」に基づき安全対策を怠った結果だと認識しています。そのようなお役人のミスによって、素晴らしい技術が発揮される機会が失われてしまうことが残念でなりません。政治家は資本の論理では動いていないので、投資家の立場で原子力発電のような政治リスクが大きい事業に投資することは難しいなと感じます。

Happy Investing!!

バフェット氏の株主への手紙(2016年版)を読んで

バフェット氏の株主への手紙

Bershire Hathaway社を率いる稀代の投資家ウォーレン・バフェット氏は、年に1回、株主に向けて手紙を書きます。毎年12月で終わる会計年度を振り返る内容で、2月下旬に発表されます。Berkshire Hathaway社のホームページで、1977年から2016年まで40年分が公開されています。毎年20ページ以上に渡って世界最高の投資家の考えに触れることができるため、投資家にとっては必読書だと思っています。

原文は英語ですが、和訳されている方のサイトを発見しました。betseldom様、ありがとうございます。

2016年の手紙が発行されました

待ちに待った2016年の手紙が、2月下旬に発行されました。心に残った点を紹介させて頂きます。

① 自分が掲げた目標と達成度を開示する姿勢

手紙の冒頭には毎年、Berkshire Hathaway社のBPS成長率、株価リターンと、インデックス(配当込S&P500)リターン比較がのっています。バフェット氏は、経営者の仕事は「長期的に企業価値を上げることであり、それは結果として株価に反映される」と明言しています。さらに自分への評価基準として、「配当込S&P500を上回るリターンを目指す」ことも明言しています。

手紙の冒頭で、バフェット氏は自ら掲げた目標に対する達成度合いを、誰もが理解できる形で明示しています。本当に潔く、フェアで、カッコいいと思います。

Berkshire Hathaway

② 複利効果のすさまじさ

上記の表で、過去52年にでBerkshire Hathaway社のBPSは年率19.0%、株価は年率20.8%で増えたのに対して、配当込S&P500は年率9.7%で増えました。19.0%、20.8%、9.7%と並べると、19.0%と20.8%など大差ないように感じてしまうかもしれません。

しかし、52年の複利グラフにしてみると、その差は一目瞭然です。1965年頭に$1投資したとすると、2016年末にBPSは$8843に、株価は$19725に、S&Pは$127にそれぞれ増えています。S&Pにインデックス投資しているだけでも100倍以上に増えて嬉しいね、という見方もできますが、Berkshire Hathaway株はその感になんと20000倍に増えています。1年で10%の違いが50年積もり積もると、とんでもない差が生まれるのです。

BPSと株価の違いに至っては年率2%以下です。それでも50年積もり積もると、倍以上の差がついてしまうのです。長期的な資産形成においては、たかが数%と思わずに手数料を節約する努力がいかに大切か、再認識させられます。

複利効果はとにかく時間がかかるので、人間が体感することは難しいのです。実際に計算してみると、目を疑うような結果が出ることが多いです。私も長い時間軸を持って、小さなリターンを積み上げて大きな複利効果を上げていきます。

② アクティブ投資は難しい

Berkshire Hathaway

バフェット氏は2008年から10年間の賭けを行っています。ヘッジファンドと市場インデックス、10年間のリターンが高いのはどちらかという賭けです。バフェット氏はもちろん、インデックスに賭けています。Protege PartnersのTed Seidesさんが選んだヘッジファンド5社の平均リターンと競争しているのですが、9年たった2016年時点では、インデックスが年率7.1% vs 2.2%で圧勝しています。

年率7.1%で9年間運用すると、 $1.00  → $1.85
年率2.2%で9年間運用すると、 $1.00  → $1.22

2017年を残すのみですから、既に50%以上開いてしまった差をヘッジファンドが取り戻すことはほぼ不可能でしょう。

バフェット氏は多くのアクティブ・ファンドマネージャーが、手数料分の仕事をしていないと批判しています。市場の仕組み上、インデックス投資家は市場平均リターンを手にします。そして、アクティブ投資家全体ではやはり市場平均リターンになります。アクティブ投資家の誰かが市場リターンを上回っているという事は、誰かが市場リターンを下回っているのです。

私は、個人投資家として個別株式に投資しています。市場平均リターンを上回ることができると思っていますし、過去3年間は結果も伴ってきました。しかし、果たして本当に自分に競争優位性があるのでしょうか?この点については、冷静に見極める必要がありそうです。

Happy Investing!!

長期業績レポート(長谷工)

長期業績レポート

1808 長谷工

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メモ

長谷工は、おそらく日経平均採用企業の中で、過去15年間に最も新株発行をした会社だと思います。分割調整後ベースになりますが、2002年から2016年3月期末にかけて、発行済株式数が4300万株から3億株まで7倍に増えています。

株価の決定要素を確認してみます。
株価 = 一株利益(EPS)x株価収益率(PER)
EPS  = 利益 / 発行済み株式数

つまり、発行済み株式数が15年間で7倍に増えると、EPSを年率約15%押し下げる要因になってしまいます。以下、株価の動きです。

長谷工の株価(出典:Kabutan)

なぜこんなことになってしまったのでしょうか?

過去の失敗へのしがらみのない経営陣とステークホルダーの協力があれば、企業は潰れない

長谷工はバブル期の過剰投資の切り離しが遅れて1995年3月期に赤字になり、1998年3月期にメインバンクの大和銀行(現りそな銀行)専務の職にあった岩尾さんを副社長に迎えます。

長谷工の経営陣(2006年3月期有価証券報告書より)

1999年5月から、生え抜きの合田社長に変わって建設省出身の嵩さんを社長、岩尾さんを副社長とトップを外部人材に完全に切り替え、膨大な累積損失の処理が始まります。あまりに危機的な状況に、トップを完全に切り替えることができたことが長谷工復活の一因かと思います。銀行団も債務株式化(デット・エクイティ・スワップ)を受け入れ、1995年から20年という時間をかけて、優先株を全て消却することに成功します。

辻社長の言葉(出典:経済界の記事より)

長谷工の事例からは、企業再生に必要な要素が見えてくる気がします。

① 過去へのしがらみのない経営陣に刷新すること
② 株主、金融機関、取引先、従業員の協力が得られること

現在大きな課題を抱えている企業群はどうでしょうか?生え抜きの経営陣はダメだと決めつけるつもりはありませんが、東京電力や東芝の新経営陣は、どれほど上の要素を満たしているのでしょうか、

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長期業績レポート(住友商事、三菱商事)

長期業績レポート

8053 住友商事
8058 三菱商事

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メモ

無印良品を展開する良品計画(7453)を2001年から率いてV字回復に導いた松井忠三さんの著書を読んでいます。その中に、「会社は社長の人格以上に大きくならない」という言葉が出てきます。

企業によって、経営陣の数はまちまちです。例えば今日取り上げた三菱商事は、2016年3月期に取締役と監査役合わせて16名の経営陣がいました。さらには過去にさかのぼって経営陣の変遷を見ていくことでも、会社の社風をよりよく感じ取ることができます。

2004年3月以降に三菱商事の社長は3名いましたが、それぞれ6年勤めたあと、会長職を6年勤めるようです。つまり計12年間経営トップにいます。それに対して、副社長や常務はコロコロ変わっていることが印象的です。常務を一年のみ勤めている人も散見されます。降格理由まで調べていませんが、商社という事業に投資して育てるビジネスモデルの中、数年で結果を残せるものでしょうか?そんな素人感覚の素直な感想を持つことが大事だと思います。なぜなら、経営陣も人間だからです。3年で結果を出さなければいけないというプレッシャーにさらされている取締役がどんな行動を取るかは想像に難くありません。

三菱商事の取締役+監査役(出典:有価証券報告書)

開示資料だけではよい運用成果は望めないという人もいますが、私はそうは思いません。業績や経営陣の長期的な変遷まで踏み込んで調べている人は、投資家の10%もいないと思います。ハッキリ言って面倒くさいですし、たいていの場合は特に分かることもないですから。でも、私としては当たり前のことを当たり前に続けて、10%の勝ち組に入りたいと思っています。

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長期業績レポート(豊田通商、三井物産)

長期業績レポート

8015 豊田通商
8031 三井物産

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メモ

私は、「企業の強さ=ビジネスモデル x 経営者」だと思っています。

ウォーレン・バフェットが、「厳しい業界に優秀な経営者が取り組んだ場合、たいていは業界の厳しさが上回る」と語っていることからも、投資においてはビジネスモデルの優劣の見極めが最重要課題だと思っています。そして、次の課題が優れたビジネスモデルのポテンシャルを最大限に引き出せるかどうかに関わる、経営者の資質の見極めになります。

最近興味があるのが、適切な経営陣の任期です。今回の長期業績レポートで取り上げた2社のトップ経営陣を見てみましょう。三井物産は5-6年で社長が会長になり、会長が退任します。

三井物産の経営陣

豊田通商は、生え抜きが社長、会長になるケースと同時に、大株主であるトヨタ自動車から転向してくる経営陣がいます。過去15年ほどは、会長か社長のどちらかがトヨタ自動車出身となっています。

豊田通商の経営陣(赤字がトヨタ自動車出身者

上記の2社のどちらの経営陣のあり方がよいでしょうか?私は、生え抜きしか経営陣になれない三井物産に比べて、外部の風(トヨタ自動車と決まっていますが。。。)が入ってくる豊田通商の方が好感が持てます。前例にとらわれない大胆な決断ができる気がします。

経営陣の経歴を見ると、よりよく企業文化を理解できると思います。

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長期業績レポート(伊藤忠、丸紅)

長期業績レポート

8001 伊藤忠
8002 丸紅

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メモ

今回から商社を取り上げます。給与水準や就職人気度が高く、実際に勤務している友人も多いです。何かと耳にすることが多い日本を代表する企業群なので、長期業績レポート作りが楽しみです。

日経平均には7社の商社が採用されています。7社を合計すると、時価総額で約14.5兆円、連結従業員数約50万人を擁しています。

私の中では、商社を投資会社として理解しています。株式保有だけではなく自分たちで事業を運営することもあるので、プライベートエクイティ―に近いでしょうか。

事業が多岐にわたるため、投資家の立場で企業の本質価値を見極めることが難しいです。経営陣が果たして自社のことをどこまで理解しているのだろうかと思うときがあります。

伊藤忠を例にとると、2016年3月期に開示されている子会社や関連会社は900社以上ありました。

2010年より社長を務める岡藤さんは、繊維畑の出身です。つまり、繊維セグメントの100社については予備知識を持っていると想像できます。

しかし、残りの800社についてはどの程度理解しているのでしょうか?6つの主要セグメントがある中、岡藤さんに土地勘が乏しいと想像される、金属事業とエネルギー事業への投資バランスをどのように判断するのでしょうか?

商社の事業ポートフォリオは分散投資されているから安心だと言えば聞こえが良いですが、私は経営資源を集中させて特定の事業領域で突出している企業の方がよく理解できると感じます。

関連投稿】年率21.6%の29年複利リターンを達成した8人の破天荒な経営者に共通すること

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長期業績レポート(住友電気工業、フジクラ、東洋製缶)

長期業績レポート

5802 住友電気工業
5803 フジクラ
5901 東洋製缶

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メモ

先日、友人と中小型株についてああでもないこうでもないと情報交換していました。ふと友人が、「日経225銘柄だけで運用してと言われたらどうする?」と聞いてきました。

これまで日経225銘柄のうち、160以上の銘柄について長期業績レポートをまとめてきました。その感想ですが、日経225銘柄での資産運用は難易度が高いと思います。

EPSを継続的に成長させる力のある企業が少ないので、そのような企業の株をただ持ち続けても稼げません。必然的に株価が安くなるまで待って買い、適正価格に戻ったら売る戦略をとることになります。

成長力のある企業(例:ソフトバンク、ファストリテイリング)はあることにはありますが、数少ない大型成長株として機関投資家の資金が流入するため、常に高いバリュエーションで取引されており、なかなか買い場が訪れません。

残念ながら日経平均銘柄での運用は、5年に一度の不景気を待って買い、好景気で売るということを繰り返さざるを得ないのではないでしょう。

Happy Investing!!

長期業績レポート(古河機械金属、古河電気工業)

長期業績レポート

5715 古河機械金属
5801 古河電気工業

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メモ

今日の2社は古河グループに属しています。古河市兵衛(1832 – 1903)が1877年に足尾銅山を買収。大鉱脈を掘り当てたことから多角化が始まります。親会社の一部門として新規事業に取り組んではスピンオフするのが古河グループの特徴です。

以下が、古河機械金属から派生した主要5社です。現在の時価総額を比べると、子が親を超え、孫が子を超えて、、、ファナックまでつながっていることが分かります。ファナックから次の大企業が生まれるのでしょうか?

1875年 古河機械金属(鉱山開発)       970億円
1884年 古河電機工業(電線製造)       2900億円
1923年 富士電機  (電気機器製造)     4800億円
1935年 富士通   (通信機器製造)     1兆4000億円
1972年 ファナック (工作機械制御機器製造) 4兆6000億円

古河グループには、時流を捉えて形にすることできるDNAがあるのかもしれません。そして、こうした歴史を知るにつれ、「スピンオフした企業は投資対象として面白い」とするCharlie Mungerの言葉を思い出します。

関連投稿】調査対象企業の探し方:スピンオフ

Happy Investing!!

Berkshire Hathawayのバランスシートから分かること

パブライ氏がポッドキャストに登場

Berkshire Hathawayを率いるウォーレン・バフェットはバリュー投資家の憧れの存在です。私はモニシュ・パブライにならって、優れた投資家を積極的に真似(クローニング)しようとしています。

先日、The Investor’s Podcastという著名投資家が出演するポッドキャストに、モニシュ・パブライが出演しました。その中で、Berkshire Hathawayのキャッシュポジションについて次のようなやり取りがありました。

司会:バフェット氏は常々、企業価値の評価に集中しろと言っています。ミクロを正しく理解するだけでも難しいのだから、マクロの心配はするなと言います。しかし、私はバフェット氏がクレジットサイクルについて深い洞察を持っているように思えてなりません。その証拠として、バフェット氏はリーマンショック前にも大きなキャッシュポジションを持っていましたし、今もまた、80億ドル以上のキャッシュポジションを持っています。

モニシュ:私はバフェット氏とクレジットサイクルについて議論したことがありますが、ここでその内容を明かすわけにはいきません。ただ一つ言えることは、バフェット氏は何一つ隠そうとはしていないということです。彼は、リスクリターンに見合うと思えば投資するし、そう思えなければ動かない。ただ、それだけのことなのです。その結果がBerkshire Hathawayのバランスシートに表れています。

2016年9月末に85億ドル(約9兆円)のキャッシュポジション

実際にBerkshire Hathawayのキャッシュポジションを調べてみましょう。

まず、Berkshire Hathawayのホームページに行き、Annual&Interim Reportsをクリックすると下のようになります。シンプルに、各四半期の報告書を読むことができます。

2016年第3四半期(9月末)のレポートを開いてみましょう。PDFファイルの3ページ目にバランスシートがのっています。

3部門に分けて開示されていますが、Cash and cash equivalentsを合計すると、$68.2 + $3.89 + $12.67 = $85億米ドル(約9兆円)になります。

次に、時系列でみると、過去最高水準であることが分かります。S&P500の値動きと比べると、見事に連動しています。2008年まではキャッシュポジションを積み上げ、リーマンショックの安値で投資に踏み切っていることからキャッシュポジションが減少しています。バフェット氏のキャッシュポジションが大きく減ったとき(大型買収を除く)は株式市場の買い時ということは言えそうです。

S&P500 (Google Finance)

バランスシート比率でみると

キャッシュポジションは確かに過去最高ですが、同じく資産総額も日々増加しています。例えば、1000万円運用している人の500万キャッシュポジション(50%)と、その同じ人が後日3000万円運用しているときの1000万キャッシュポジション(33%)を比べても、投資の強気弱気は良くわからないということです。

そこで、キャッシュポジション / 総資産をみてみます。すると、現在は14%であり、過去と比べて非常に高いわけではありません。2004年代のバフェットは、25%ものキャッシュポジション(40億ドル以上)を抱えて、魅力的な運用先が見つからなかったことを示唆しています。

私はバークシャーのバランスシートを4つに分けて理解しています。(1)キャッシュ、(2)株式投資、(3)債券投資、(4)事業投資です。この4つを合わせてバランスシートの100%になります。それぞれの比率を見ていくと、いくつかの傾向がみられます。

1、債券投資が大幅に減少。中央銀行の低金利政策を受けて、債券投資の魅力は大きく減少していると判断しているようです。

2、事業投資にシフト。Berkshireの総資産は60兆円と巨大です。上場企業への投資では、資金の投資が間に合わないのでしょう。アメリカには時価総額が10兆円を超える上場企業が50社ほどあります。仮に1社の5%を購入したとしても5000億円、Berkshireにとっては資産の1%も投下できません。しかも、バフェット氏が買っているという大量保有報告書が出れば、多くの投資家が追随して価格を押し上げてしまいます。そこで、リーマンショック後のバフェット氏は、Berlington Northern Santa Fe(鉄道、2009、260億ドル)、Heinz(食品、2013、280億ドル)やPercision Cast Parts(鋳造品、2015、323億ドル)といった大企業を丸ごと買収しています。会計上連結されるこれら投資は株式投資ではなく、事業投資として現れるのです。

まとめ

バフェット氏が率いるBerkshire Hathawayのバランスシートを遡ると、たしかに現在のキャッシュポジションの絶対額は過去最大ですが、総資産対比では2008年以降に対して少し多くなってきたという程度です。徐々に買いたい資産が見つからなくなってきているのかもしれません。

一番明らかなトレンドは、債券投資を大きく減らしていることです。低金利環境で、リスクリターンが悪いと判断しているのでしょう。

世界一の投資家のバランスシートの動きから学ばせて頂きましょう!

Happy Investing!!