ノルウェー旅行 その4(ノルウェー年金基金)

ノルウェーは、1500年くらいからデンマークやスウェーデンの支配下にあり、1905年に独立したばかりという比較的新しい国です。当時はヨーロッパ最貧国の一つであり、1850-1900の国民ひとりあたりの離国人数はアイルランドに次いでヨーロッパ2位だったとか、1825-1925の100年間で80万人のノルウェー人が海外移住したという記述もありました(リンク)。単純計算で年間8000人とすると、1900年の人口220万人に対して0.4%です。現在の日本の人口1億2000万人に対して毎年50万人が海外移住する規模です。2024年に日本に外国人が34万人増えたそうですが、その約1.5倍のペースです。

ノルウェーの経済が大きく変わったのが、1968年の石油発見です。ノルウェーの幸運は、小国であったことと、すでに民主主義システムが確立していたことだと思います。他の産油国を見てみると、王族が支配する中東や、独裁主義に代わってしまったイラクやイラン、ベネズエラにアフリカ諸国。「資源の罠」という通り、地下からお金が湧き出てくるという簡単に稼ぐ方法があると、それを占有しようという勢力が出てきてしまいます。ノルウェーは、石油からの収益は市場価格次第で大きくブレること、また将来的には枯渇する資源であることを認識して、石油採掘事業を海外メジャーとノルウェー国営企業のJV形式で進めたうえで、ノルウェー国営企業の収益は基金として積み立てる決断をできたことが幸運でした。

こうして始まったノルウェー年金基金の残高は今や300兆円。ノルウェー人口550万人に対して一人あたり5000万円以上になります。日本の年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も同じく300兆円ほど運用していますが、1億2000万人で割ると一人あたり250万円と大きな差があります。石油による臨時収入にうかれて支出を上げるのではなく、しっかり貯めて運用してきたことが、大きな差につながっています。ポピュリスト政治家であれば、このお金を使ってノルウェーの高い税率を下げようぜ!と提案しそうなものです。どうやって社会としてこのような長期的に合理的な合意形成ができるのか。そこにノルウェーの本当の強さがあると感じます。

https://www.nbim.no/en/investments/the-funds-value/

ノルウェー旅行 その3(ドイツの旅職人)

ノルウェーのFykseという小さな村の住人と話していたとき、自宅の改装を行っていて、ドイツ人職人を雇っていると聞きました。わざわざドイツから職人を呼んだのかと思ったら、「2人の職人とフェリーで知り合った」とか、「彼らはスマホを持ってはいけない」とか、「2年間の武者修行の間は故郷には帰れない」と聞いて、全く知らない世界に興味を持ちました。

あとで調べてみると、ドイツには「ヴァルツ」という旅修行制度があるそうです。ゲゼレという職人になったあと、3年と1日の旅修行を行うことで、マイスター(親方)に昇格できる仕組みで、800年以上の歴史があるそうです。

決まった仕事着を着ること(ベストにある8つのボタンは8時間労働、ジャケットの6つのボタンは週6日労働を意味する)、故郷から50キロ以内に立ち入り禁止、スマホ・パソコンの所持禁止(借りて使うことはOK)などなど、他人と交流して技術・人間性を高める工夫がなされています。今では旅修行を行う職人は全体の1%しかいないそうですが、私はこうした何百年も続く伝統が大好きです。中世から歴史の荒波を乗り越えてなお残っている制度には何か本質的な意味・価値があると思うからです。こうした伝統に身を預けること、伝統の一部になることには帰属意識と安心感があるのだろうなと憧れを感じます。

こちらのブログに、日本で旅修行していたドイツ大工職人との交流がまとめてありました。ご参考まで。

ノルウェー旅行 その2

ノルウェーで驚いたことの一つは、国民の英語能力の高さです。私の感覚では、これまで訪問した国で総合的に一番。しかも発音が聞きとりやすい。例えばドイツ人の多くは英語が上手ですが、訛りが強いです。

オスロについて買い出しに出かけたRema 1000という大手スーパー(Wikipedia)。時給3000円でもセルフレジはなく、20歳くらいの青年がレジ打ちしています。ノルウェー語で話しかけられたので、”Do you speak English?”と聞くと、”Do you need a bag? How would you like to pay?”と立て板に水。英語圏かと思うほどです。

旅行後半、フィヨルドに浮かぶサケの養殖場を見学したく、ノルウェー第二の都市ベルゲンから100キロほど離れたFykseという田舎町で民泊を利用しました。商店もないような、人口100人ほどの小さな村です。ちょうど近所で造園業をやっているおじさん(60歳くらいかな)が道具を借りにやってきていたので立ち話をしたのですが、そのおじさんも英語がペラペラ。高学歴ではなさそうだし、造園業というノルウェー人相手なローカルな仕事です。普段英語を使う機会は多くないと想像するので、なぜこんなに英語がうまいのか理解ができません。すっかり驚いてしまって、肝心の「どうやって英語を学んだのか?」という質問が出来ませんでした。

ノルウェーでは最近、上場企業に英語のみでの開示を認めるようになりました。日本企業が、日本語・英語の双方で開示することは増えてきましたが、英語だけでもOKって考えられますか?それほど英語の運用能力が全国民レベルで高い。人口が500万人しかいないから、外国と仕事をする必要性が高いことも一因でしょうが、人口が200万人とさらに少ないラトビアはそこまでではなかった。大人はソ連時代に教育を受けたからなのかな。

他の北欧諸国を回って英語力を比較してみることが楽しみです。

ノルウェー旅行 その1

9月上旬、初めてノルウェーに行ってきました。その感想を何回かに分けて記録したいです。初回は初印象から。それは、とてつもなく豊かな国だということです。きれいな公共交通機関。ゴミのない道路。最新の電気自動車が行きかう街中。アウディ、BMW、レクサス。中国系EVは少ない印象です。タクシーはテスラ。しかもオスロだけではなく、第2の都市ベルゲンから2時間ほど離れた田舎ですら、日本であれば軽トラと軽自動車が走りそうなリンゴ果樹園の横を、新型EVが次々に走っていくという何とも不思議な光景。

https://japan-europe.com/column/1933/

ノルウェーの最低賃金は約3000円。東京都が1226円ですから、物価水準は2.5~3倍。ニューヨーク市が約2500円、トロントは約1900円ですから、やはり高い。消費税率は25%と高いですが、ノルウェーはEV優遇政策で消費税なしで購入できるそうです。グローバルで均一な自動車価格に対して所得が高いわけですから、無理なく購入できるのかもしれません。日本では東京と地方都市には差を感じますが、ノルウェーでは地方の隅々にまで(オスロとベルゲンの間という限られた地域ではありますが)豊かさがいきわたっているような感覚が新鮮でした。

物価の比較としては、絵葉書を海外に送ろうと切手を買ったら1枚あたり39クローネ(約600円)と驚きの高さ。ぼったくられているのかと思わず公式サイトで確かめてしまいました(リンク)。確かにEU外は39クローネでした。日本ではハガキの航空便100円と驚愕の安さ。ちなみにカナダは約400円。物価水準の違いを考慮しても、日本が安すぎるのではないでしょうか。200円くらいが妥当かな。ノルウェーのガソリン価格は1リッター約300円。産油国だからと言って安売りはしません。東京で170円。

アメリカやカナダは物価が高いけど、高いわりに質が悪い印象を受けます。それに対してノルウェーは高いですが、質も伴っている気がして好印象です。

パターンの異なる社長交代に注目したい

上記の夢のような株価推移は、アシックスです。靴業界には巨人のNikeやAdidasがあり、新興のHokaやOnも伸びるなど、私にはなかなか5年後の未来を見通しづらい業界ですが、それでも社長交代をフォローすることの大切さを再認識させてくれる会社です。

三原さんは1929年生まれ。戦争を挟んで1959年に大学卒業。1960年に入社した生え抜きです。業績不振の責任を取って1996年に社長交代したそうです。高橋さんは1936年生まれ。1958年に大学卒業して入社した生え抜きです。和田さんは1942年生まれ。高校卒業して1961年に入社した生え抜き。そして尾山さんは1951年生まれで、創業者鬼塚さんの長女恵美子さんの旦那さん。

ここまではすべて鬼塚ファミリーと言ってよい面々ですが、尾山さんの業績不振で2018年に社長就任した廣田さんは三菱商事出身で元々アシックスとは何の関係もない方。ここからアシックスの快進撃が始まります。廣田さんは十分に稼いで来たでしょうし、アシックスを首になっても怖いものなし。まさにしがらみ無き改革を実行できる立場にあったのでしょう。こういう変化の香りの漂う社長交代には注意していきたいです。「社長交代のお知らせ」というリリースしか出ないので、一つ一つ丁寧に内容を見ていく努力が求められます。

ビットコインを買う企業

最近の適時開示情報を見ていると、「ビットコインを購入します」という発表が多いことが気になっている。例えば8月25日、186件の適時開示のうち、ビットコイン購入に関するものが5つもあった。

8月18日には、熊本地震からの復興需要を見込んで投資したこともある、熊本本社の住宅メーカーLib Workが、5億円のビットコイン取得を発表していて、思わず笑ってしまった。さらに継続的に取得していく方針だそうだ。

本気でビットコインの未来を信じている経営者もいるのかもしれないが、大半は株価対策だろう。例えばLib Workの場合、株価は過去5年間横ばい。8月18日にビットコイン取得発表をわざわざ場中の昼12時に行い、瞬間的に株価を10%上昇させた点など、とてもせこいと思う。時価総額に占めるビットコイン比率が高まるほど、企業価値評価には事業の収益予想に加えてビットコイン価格予想が重要になる。ビットコイン価格は分からないと私のように手を出さない投資家も多い訳で、ビットコインを取得するというのは、ある種の投資家を遠ざけ、逆に別の種類の投資家を寄せ集めることになる。それが目的なの?

日本企業におけるビットコイン取得の成功例と言えば、メタプラネット。株価は2024年からピークの2025年夏までに100倍になり、2024年に世界の全上場企業で最も値上がりしたと会社自身が誇っている。自信があるなら大株主は株式保有を続けるのかと思いきや、2024年に大規模売却。会社の将来に自信はあるけど、一番よく内情を知っている自分たちは売りますっていうのも不思議な話。しかし、こういうシンデレラストーリーが出来てしまうと、真似した企業が出てきてしまうんでしょうね。

Air Canada(エア・カナダ)のストライキ

カナダの最大手航空会社、Air Canada(エア・カナダ)の客室乗務員がストライキを行っており、8月16日からほぼ全便が欠航しています。出張はもちろん、夏休みの終わりの時期で旅行先から帰って来れない人など、毎日700便、13万人に影響が出ているそうです。

日本で大規模ストライキは長らく起こっていないと思いますが、有名なものは1975年11月26日~12月3日の国鉄ストライキ。高度経済成長でインフレ率が高く、賃金上昇が物価上昇に追いついていなかったのでしょう。今回のカナダも含めて、インフレ環境が大規模ストライキの前提条件になることが多いと予想しますし、そうであれば、長らくデフレ環境でストライキがなかった日本でもストライキが増えてくるのかもしれません。

エア・カナダの前回の大規模ストライキは1998年のパイロット。この時は、11日間かかったそうです。今回は解決に何日かかるでしょうか?カナダでは、運輸など必需サービスに分類される業種については、政府がストライキ解除するよう通達を出せる法律があるそうです(Section 107 of the Canada Labour Code)。今回もエア・カナダ経営陣は政府に泣きつき、労働大臣もわずか数時間後にこの通達を発表。このスピードを見て分かるのは、通達発表が既定路線の出来レースだということです。今回が違うのは、客室乗務員の労働組合が通達を無視したこと。これまでエア・カナダ経営陣は、この通達頼みでストを突破してきた黒歴史があるそうで、これを許容しているとストの意味がなく、フェアな労働協議が実施されません。それはもう許さないという労働組合の強い姿勢を感じます。

オンラインに開示されていたエア・カナダの客室乗務員の給与明細(T-4)によると、年間給与は$3.5万ドル(約400万円)。どれくいらいの頻度でフライトをしているのか分かりませんが、さすがに安すぎると思います。オープンワークでJALの客室乗務員の平均年収が450万円とありますが、カナダの物価は日本の1.5 ~ 2.0倍です。

https://www.reddit.com/r/britishcolumbia/comments/1mqgl8k/how_much_an_air_canada_flight_attendants_actually/

8月17日(日)、ストライキの現場を見学するために、トロントのPearson空港に行ってきました。1万人が参加しているという規模感を感じることはできませんでしたし、空港に困った客が溢れかえっている訳でもありませんでした。

トロントでの不動産購入

トロントで賃貸暮らしですが、日本のバブル崩壊やアメリカのリーマンショックといった不動産価格が大きく下落した経験の少ないカナダ人は持ち家派が大多数です。不動産価格は上昇し続けると信じている人が多くて驚きます。そこで、不動産取得にはいくらかかるのか調べてみました。現在のトロント不動産市況ですが、戸建て(Detached home)の平均売買価格は$1.4M(約1.5億円)となっています。

不動産仲介費用は売り手持ちですが、代わりに不動産取得税がかかります。さらに頭金が20%以下の場合には住宅ローン保険への加入が義務付けられており、物件価格の2.8%になります。しかし、頭金3000万円を貯められる家庭がどれほどいるのでしょうか。親の援助などあれば別ですが、大多数の購入者は住宅ローン保険を利用していると予想します。費用を合計すると、物件価格の約6.5%になります。

その後の毎年の支払いはどうでしょうか?年0.75%の固定資産税と平均年0.75%の修繕費用がかかる前提で、毎年10万ドル。30年総額で320万ドルにもなります。さらに修繕に対して業者選定など時間を使う必要があります。物件価格が年率2%で値上がりすると仮定すれば、約100万ドルの値上がり益が期待できます。320万 – 100万 = 220万ドルは360カ月換算で月6000ドル。賃貸価格も値上がりするので、現在4500ドルの賃貸と140万ドルの物件購入が経済的には同等というイメージでしょうか?自分の時間を使う点や、変な隣人に当たっても引っ越せないリスク調整後は同等とは言えないと思いますが、そのあたりは価値観ですかね。

カナダは日本より治安が悪いのか?

日本というと治安が良いというイメージがあります。最近カナダでは大型ショッピングモールの前で銃撃があって死者が出たという物騒なニュースがあったりして、確かに治安が悪い印象を受けます。カナダでは拳銃の所持には厳しい規制があり、一般的ではありません。カナダの知り合いで拳銃を所持しているという人を一人も知りません。比べて、アメリカの大学に通っていた頃、近くの商店街を歩いていても腰にホルスターを付けたおじさん(一般人)が普通に買い物をしていたり、WalmartやK-martといった大型ショッピングセンターの奥には銃器販売コーナーがあって驚いたものです。そんなアメリカから拳銃を密輸することは簡単でしょうから、カナダの銃犯罪を抑えるのは難しそうです。トランプさんはカナダから合成麻薬がアメリカに流入していると文句を言っていますが、銃器は逆流していると思います。

さて、実際の犯罪統計を見てみると、2023年の殺人事件数は10万人あたり日本が0.23人で世界最低レベル。カナダは2.25人で世界中央値レベル。殺人事件で比べた場合、約10倍治安が悪いと言えます。ちなみにアメリカは6.8人だったそうです。(参考リンク

カナダでは車両盗難が話題に上ることが多いです。近所でも駐車していた車を盗まれたという話を聞いたことがあります。2024年に日本では8400件に対してカナダでは57000件。人口あたりに調整すると、約20倍の発生率です。

最後に治安ではないですが、運転について。カナダというか、トロントの運転マナーは良いとは言えません。ウィンカーなしでの頻繁な車線変更も多く、高速道路での事故渋滞も日常茶飯事。緊張感を持って運転しています。交通事故による死亡者数は、2023年に日本が2678人に対してカナダは1964人。人口あたり約2倍の頻度です。感覚的にはもっとカナダの運転が下手だと思うのですが、トロントでの発生率はもっと高いかもしれません。

最後にトレンドとしては、カナダは30年というスパンでは横ばい。ここ10年は増加傾向。トルドー政権による移民受入れ増加の影響がどれくらいあるのか気になります。一方の日本は一貫して犯罪率が低下しているようです。世界に誇れる日本の治安の良さが維持されますように!

カナダの10万人あたり殺人件数
https://www.macrotrends.net/global-metrics/countries/can/canada/murder-homicide-rate#:~:text=Canada%20murder%2Fhomicide%20rate%20per,a%202.73%25%20increase%20from%202018.

参議院選挙結果を受けて

7月20日に参議院選挙が行われました。前評判通り、自公与党で過半数割れ、国民民主党、参政党の躍進という結果になりました。2000年代に入ってからの参議院選挙結果を集計した感想を書いてみたいと思います。

2001年に小泉首相の参議院選挙では、旧5党(自民、公明、民主、共産、社民)が合計して9割以上の議席を占めていました。それが、今回は70%以下に低下。このトレンドが続くと、3年後の参議院選挙ではさらに低下するでしょう。特に、立憲民主、共産、社民の凋落(3党合わせて87議席が47議席へ半減)が顕著です。比較すると、自民と公明はむしろよく時代の変化に耐えてきたと評価したい。社民党は土井さんの時代(1989年参議院選挙のマドンナ旋風)、民主党は菅さんの時代(2009年衆議院選挙)で自民党を上回る議席を獲得。しかし、両党とも成果を残せません。民主党政権時代は私の記憶にも残っています。政権奪取してからのプランがなかったのか、有権者の期待が高すぎたのか。2大政党制のチャンスが失われ、さらに自公(特に創価学会員の高齢化による公明党)の凋落が始まったことで、今後はますます多党化による分断が始まる予感がします。SNSなどでコアな有権者にダイレクトに意見を伝えるスタイルが普及すればするほど、多少妥協してでも連立を組んで安定政権を維持するメリットが少ないですから。

諸外国に比べるとゆっくりではありますが、若返りも進んできました。旧5党の党首の平均年齢が約70歳に比べて、新進4党の党首の平均年齢は約50歳。高齢化に伴い、高齢者の有権者数が多く優遇政策がとられやすいことから、シルバー民主主義と言われて久しいわけですが、物価高で高齢者も既存政党に不満を持ったのでしょうか?そろそろ若手にやらせてみようという流れは歓迎したい。70代というと、自分の親をイメージすればいい訳ですが、SNSもYoutubeもやってません。テレビや新聞という既存マスメディアの凋落もあり、50代政治家と発信力に差がついてきたのかもしれません。このトレンドもしばらく継続することでしょう。