ドミー(9924)の粉飾に思う

株価下落率トップに頻出するドミー(9924)

ヤフーファイナンスの株価上昇・下落ランキングを見ていると、ドミー(9924)という会社が数日連続で下落率トップに出ていることに気付きました。株価は何年も2500円で横ばいに推移した後、今日(3月2日)には600円台にまで下落しています。一過性の理由による株価下落はバリュー投資のチャンスになることもあるので、調べてみました。

愛知のスーパー上場廃止の陰に東芝?

ドミーは、1913年に呉服屋として創業、スーパーに業態転換して、現在は愛知県に37店を展開しています。スーパーと言えば地味で安定的な事業に思えるのですが、名古屋証券取引所へ有価証券報告書の提出が遅れ、上場廃止が決まってしまいました。監査法人(新日本)からの適正意見(報告書が会計上適切であるというお墨付き)がもらえなかったという事が理由のようです。

スーパーは仕入れ先から、販売金額などの目標達成に応じたリベートを受け取っているそうです。ドミーでは、そのリベートの配分を作為的に変更して、業績が悪い店舗の業績をよく見せるという粉飾を行っていました。全社での利益合計が同じならいいじゃないかと思うかもしれませんが、資産価値を評価する減損テストに影響があるのです。例えば、3000万円かけて店舗を作ったとします。通常は10年の減価償却期間であれば、年間300万円の減価償却を費用として計上します。しかし、仮にその店舗が赤字続きであった場合は、資産価値がないと判断されて、3000万円を例えば一気に1000万円まで2000万円減損することを監査法人に求められることがあります。

この背景には、東芝の不祥事があると思います。新日本監査法人は東芝の粉飾決算を見抜けなかったとして、金融庁に21億円の課徴金を支払いました。二度と起こらないように、厳しい姿勢で監査業務に臨んでいることが想像されます。

ドミーに見る危険信号の数々

このような企業に投資して地雷を踏まないために、何が学べるのでしょうか?
1、売上成長率が低い:売上成長率は年率1%を切っている。
2、営業利益率が低い:営業利益利が1%しかありません。ちなみに、優良スーパーの営業利益率は4%以上(ハローズ、ヤオコー)。

1,2とも当たり前に感じます。むしろ、これまで株価が下落していないことが不思議なくらいです。会社は当期純利益を超えても1株10円の配当を維持して来ました。1株500円(合併前)に対して2%の利回りが出ていればよいという感覚で保有されていた株主が多かったのでしょうか。

まとめ

粉飾は問題ですが、上場廃止にするほどのことなのかなと思いました。東芝への東京証券取引所の柔軟な対応と、ハードな名古屋証券取引所の対応に随分差があるなと感じました。また、ドミーの株価は、売上成長率と利益率の低さを考えると、非常に割高だったことも事実だと思います。苦しい状況に置かれた企業や従業員ほど、粉飾に手を出したくなります。既存事業の伸びしろがある企業、競争優位性のある企業に投資しましょう!

Happy Investing!!

相場下落は投資ルールを磨くチャンス

久しぶりの株価調整

2月に入って、日経平均株価は24000円の高値から10%以上下落しています。過去6ヶ月の日経平均株価を見ると大きな調整に見えますが、過去5年のチャートを見ると久しぶりの調整であることが分かります。また、10%では小規模調整です。前回の調整は、2015年夏から2016年夏にかけて20000円から15000円まで25%下落しています。

日経平均株価(6ヶ月)
チャート画像
日経平均株価(5年)

株価調整は、投資ルールの有効性を確かめるチャンス

株価下落は経験しないのが一番ですが、長期間投資する上ではうまく付き合っていくしかありません。そこで、私は投資ルールを磨くチャンスと捉えています。

株価が下がってみると、その株式を自信を持って保有し続けられるのか、売りたくて仕方なくなるのか良く体感できます。売りたくなる株に関しては、どこか投資ルールに無理があったと考えてます。私の今回の場合であれば、(1)強気すぎる価格で購入してしまったと薄々感じていた株、(2)既に割高だなと思っていながら、もっと株価が上がるかもお保有し続けた株、が該当します。

(1)に関しては、相場上昇で自分が考える割安基準(本質価格 x 50%以下)を満たす会社が見つからない中、本質価値算出ルールを破ってしまいました。競争優位性に疑問点が残る中、足元の高成長が続くと夢見てしまいました。

(2)に関しては、新規購入したい株が見つからない中、できるだけ既存投資先の利益を伸ばそうと欲張ってしまいました。以前は、本質価格の50%以下で購入し、本質価格の90%で売却していました。80%のアップサイドが取れていますが、2017年は売却後にさらに株価が上昇する事例が相次ぎました。早すぎる売却を後悔して、本質価格で半分を売却して、残りは保有を続けようとルールを変えました。つまり、100円の価値があるものを50円で買い、100円で50%を利益確定(元本を回収できる)、残りは保有し続けて利益を伸ばそうという作戦です。今回の株価下落で分かったことは、私にはアップサイドを取り逃がす機会損失よりも、割高だと思っている株を保有し続けるストレスの方が大きいということです。

投資ルールで考える要素を減らそう

Investment is most intelligent when it is most businesslike – Benjamin Graham

投資は考えられる要素が多いので、あらかじめルールを決めておかないと続けることが難しいと思います。多くの人が勝ってきたルールに基づいて行動していけば、勝てる確率は高くなると思っています。私にとってはバリュー投資であり、売買ルールはMohnish Pabraiを参考にしています。

バリュー投資には、次の3つのルールが必要だと思っています。

(1)企業評価ルール(どのように本質価値を算出するか)
(2)購入ルール(いつ、どのように、どれだけ購入するか)
(3)売却ルール(いつ、どのように、どれだけ売却するか)

Happy Investing!!

投資家の最大の敵は自分自身

新規事業:資産運用アドバイザー事業に対するよくある反応

これまでNagatomo Investmentsでは、①ブログでの情報発信、②投資セミナーの開催 という2本立てで運営してきました。2018年3月より、3本目の柱として、資産運用アドバイザー事業 を行います。資産運用アドバイザーで目指すことは、長期・分散・積立投資の徹底です。年間5万円のアドバイス料で、①現状把握、②資産運用計画の策定、③計画から脱線しないサポート を提供します。

この話を知人友人すると、よくある反応は、「5万円分の価値があるのか」ということです。長期・分散・積立投資は、基本的に何もしません。毎月積み立てるだけで、市場平均リターンを目指します。そんな投資なら自分でできる、5万円の価値はない、と思ってしまう人が多いようです。どうもみなさん、株価が堅調だからかアップサイドばかりに目が行くようです。しかし、私は資産運用アドバイザーの役割は、顧客に多く稼いでもらうことではなく、できるだけ損をしないようにすることだと思っています。

平均的な個人投資家の運用結果は市場インデックスに遠く及ばない 

みなさんは、市場インデックスの積立投資が簡単だと思うかもしれません。しかし悲しいことに、現実には平均的な個人投資家の運用結果は市場インデックスに遠く及ばないようです。

米国Dalbar社の調査による(レポート原文へのリンク)、2015年末までの個人投資家と市場インデックスの比較が下図です。例えば、過去20年において、株式投資信託に投資していた個人投資家は年率4.67%のリターンを獲得しました。日経平均に比べれば夢のような数字ですが、S&P500に20年間投資していれば、年率8.19%のリターンを獲得できたのです。なぜ、個人投資家のリターンは市場インデックスに対して年率3.5%も劣後しているのでしょうか?

出典:Dalbar

余談ですが、1年で3.5%と聞くと大したことないように思うかもしれませんが、複利効果になると話は別です。下図のように、20年間経つと、8.19%で増えたS&P500が5倍になったのに対して、4.67%しか増やせなかった個人投資家は2.5倍になっただけです。年率3.5%という差は、長期投資の世界では、非常に大きな差になります。

個人投資家のリターンが市場インデックスに劣後する理由

本題に戻りましょう。個人投資家が、積み立てるだけで簡単だと思われている市場インデックスリターンすら達成できない理由についてです。

Dalbar社のレポート10ページに、その理由が分析されています。一番大きいのは、Voluntary investor behavior underperformanceによる1.5%です。つまり、毎月決まった金額を積み立てて保有し続けようと思ってはいても、株価が下がれば怖くなって売却してしまったり、株価が上がれば嬉しくなって買い増してしまったり、余計な投資行動を行うことでリターンを低下させているということです。

出典:Dalbar

市場インデックスのリターンを獲得するだけでも、十分に難しい

平均的な個人投資家は、市場インデックスのリターンを獲得することが出来ていないのが現実です。長期・分散・積立による市場インデックス投資は簡単だと思われがちですが、過去20年間には、ITバブルも、金融危機もありました。このような大きな株価変動の中で、本当に淡々と予定通りに積立投資ができた人がどれだけいたでしょうか?市場インデックスのリターンを確保だけでも実は十分に難しいことなのではないでしょうか?

資産運用アドバイザーの役割と対価について

個人投資家にとって、市場インデックス並みのリターンを達成できない最大の要因は、自分自身です。市場インデックスに対する超過リターンを目指したい気持ちは分かりますが、まずは市場インデックスにすら大きく劣後しているという現実を直視して欲しいのです。資産運用アドバイザーは、個人投資家が市場インデックスを達成できるようにサポートすることが、目的です。

具体例でいいますと、1年ほど前でしょうか、毎月インデックスに積立投資をしている友人から、「米国株高が続いている。どうも株価が高すぎる気がして、売却したいが、どう思うか?」という質問を受けました。私は、「具体的にどうして高いと分かるのですか?どうなったら再び購入を始めるんですか?どれくらい売却するのですか?」などと、一連の質問を返しました。大半の投資家は、これらの質問に返答できないと思います。仮に返答できる自信があれば、毎月積み立てるインデックス投資ではなく、投資タイミングをコントロールするアクティブ投資をしていることでしょう。

米国株式はもっと値上がりするかもしれないし、ひょっとしたら値下がりして売却した方がよかったということになるのかもしれません。しかし、重要なのは、友人が投資戦略から脱線しなかったことです。例えば、一旦売却した価格から値上がりしてしまうと買い戻すことが難しいでしょう。一度脱線してしまうと、戻ることは容易ではないのです。

一般的な個人投資家の脱線コストがDalbar社の調査のとおり、年率1.5%だったとすれば、500万円を運用している人には、年間500万 x 1.5% = 7.5万円の脱線コストが発生しています。この脱線コストは複利で効いてくるので、1年目で7.5万円のコストは、20年後にはその数倍に膨れ上がっていることでしょう。年間7.5万円の脱線コストを削減するために、年間5万円は妥当ではないですか?資産運用アドバイザーとは、そういうご提案です。

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投資信託の地雷原を安全に進むために

投資信託を選ぶのは、個別株を選ぶより難しい?

昨日、久しぶりに投資セミナーを開催しました。『投資の基本』と題して、複利効果や長期投資に向いた金融資産の分類などについてお話ししました。参加者の方々、ありがとうございました。

質疑応答では、具体的な投資方法についてアドバイスしました。参加者の方は、楽天証券で投資信託の購入を始めたということでした。「投資信託の選び方も難しいんですよね」と言いながら、楽天証券ホームページの投資信託一覧を見て驚きました。下図です。

出所:楽天証券

なんと、楽天証券だけで2,500本以上の投資信託を扱っているのです!

一体、日本にはいくつの投資信託があるのだろうかと、一般社団法人投資信託協会のホームページにいきました。すると、2017年11月末時点で、6,200本以上の公募投信あるということです。あまりの多さに驚いてしまいました。

私は個人投資家として日本の個別株を中心に運用しています。約3,600社の上場企業から、これはと思う会社を選んでいきます。電話帳のような四季報を通読していると言うと物珍しがられます。しかし、お手軽に見える投資信託への投資も、実は全上場企業より多い中から選ばなくてはならず、母数が多いだけにもっと難易度の高い可能性があることを自覚した方がいいと思います。

地雷原を安全に通行するために

個別株を調べる興味も時間もない99%の人にとっては、投資信託やETFの長期分散積立投資が王道だと思います。しかし、せっかく王道を進もうと思っても、前述のように投資信託の数が多くて、どの商品を買ったらよいか迷うはずです。個人的には、その大半が長期投資に適さない商品だと思います。まさに投資信託は、初心者投資家から手数料を奪い取ろうとする地雷原という感覚です。非常に残念です。

楽天証券の場合ですが、取扱い2,500本のうち、長期投資に適していそうな投資信託は50本くらいしかないと思いました。正解が2%しかない訳で、なかなか髙いハードルです。地雷原を安全に通行するためにも、自分でしっかり準備するか、資産運用アドバイザーを味方につけることをおススメします。

Nagatomo Investmentsでも個別サポートサービスを始めましたので、お問い合わせください。

また、次回のセミナー(3月予定)では、長期分散積立投資という王道をベースに、具体的な商品の選び方を取扱います。お楽しみに!

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永守氏に学ぶ買収戦略

永守氏の買収実績

日本電産の永守氏は、これまで57件の買収を行ってきて、1件も失敗(減損)がないそうです。海外大型買収をしては減損することが多い日本企業の中では稀有な存在です。日経新聞に、そんな永守氏の年賀状について書いてありました。毎年買収したい相手先企業トップ宛てに、「もし会社を売る気があるなら、声をかけてほしい」と数十通の手紙を書くそうです。結果として、ある企業を買うと決めてから実現するまでに平均5年、最長16年かけているそうです。

日本電産の会社HPには、M&A年表が開示されています(リンク)。まとめると、以下のようになります。1984年から2017年まで、33年間で57件の買収を実行しています。平均すれば、1年で1.7件というスピードです。

株式投資に当てはめると

永守氏の買収戦略から学べることは、これはという目を付けた企業を長年に渡って観察しながらラブコールを送り続けるという待ちの姿勢です。投資銀行の持込案件に飛びつく真似はせず、記事にも「『今買わないと後悔しますよ』というのが彼らのセールストークだが、後悔なんかしたことはない」そうです。

上場株式投資は、相手にラブコールをする必要がありません。市場価格を払えば、いつでも株式を売買することができます。私は、この流動性の高さがもろ刃の剣だと思っています。流動性が低ければ、簡単には売れないので、よくよく調べてから購入に踏み切るでしょう。しかし、株式投資は「100株だけ」、という感覚で気軽に手を出しかねません。価格についても、「株価が下がったら損切ればよい」という発想になりがちです。筆頭株主になって企業再生することを前提とした買収とは必死さが全く異なるのです。

一方、私が考える上場株式投資の利点は、流動性の高さ故に投資行動を間違える参加者が多いことです。企業間の買収では、プロ同士のやり取りなので、価格が大きく外れていることは滅多にないと想像します。しかし、初心者から機関投資家までが同じ土俵で勝負する上場株式投資では、感情に流された価格付けが横行します。悪いニュースは過度な投げ売りを招いたり、逆に良いニュースには過度な期待から株価が急騰することもあります。企業価値評価と、自分自身の感情コントロールが前提になりますが、相手に対して優位に立てることが多いのではないかと思っています。

どうすれば投資で勝ち続けられるのか?実際に数十年という永きに渡って勝ち続けてきた人達の投資戦略を参考にするのが一番だと思っています。

Happy Investing!!

セミナー開催のお知らせ(1月30日)

2018年の第1弾として、5回シリーズのセミナーを開催します。

第1回 投資の基本     (1月30日)
第2回 ETF積立投資 実践編(3月上旬予定)
第3回 個別株投資 入門編 (3月下旬予定)
第4回 個別株投資 中級編 (4月上旬予定)
第5回 個別株投資 上級編 (4月下旬予定)

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第1回 投資の基本

2017年より給与所得者も加入できるようになった、iDeCo(個人型確定拠出年金)の利用を念頭に、投資の基本をお伝えします。ETFでほったらかし長期積立投資を目指す方も、個別株で高い運用リターンを目指す方も、最低限知っておいて欲しい内容をまとめました。

特に、次の3点の理解を目指します。

① 複利効果
② 金融資産の3分類
③ iDeCoをオススメする理由 

対象者:(1)投資に興味はあるが、具体的に何から始めたら良いか分からない初心者
    (2)投資は行っているが、投資戦略の方向性を再確認したい経験者

詳細

日時:1月30日(火) 19:00 – 21:00
場所:東京都千代田区神田錦町2丁目9番地 岡田ビル 201号室 (大手町駅5分)
料金:2,000円(当日払)
申込:info@nagatomoinvestments.com (先着5名)

 

ご参加をお待ちしております。

Happy Investing!!

波及効果を考える

中国で天然ガス不足という記事

日経新聞の朝刊8面に、中国で天然ガス不足という記事がありました。天然ガスは世界的に供給過剰とされているが、中国政府による石炭利用制限により、代替する天然ガスの不足や価格高騰が全土に広まっているという内容です。

波及効果を考える

中国では、大気汚染が問題になっていました。その原因の一つは、エネルギー源としての石炭利用が多いことにあります。そこで、環境問題改善のために、政府は石炭利用に制限をかけます。問題は、この後にどういうことが起きるかです。その波及効果についてどれほど論理的想像力が働くかは、株式投資において大きな差を生むように思います。

中国は経済成長率が高い国です。現代生活において、経済成長することはエネルギー消費量の増加につながります。つまり、中国のエネルギー消費量は将来にわたって拡大していく確率が高いです。その一方で、政府は石炭利用を制限しようとしています。この結果として、どうなるでしょう。

波及効果① 

下の表のように、石炭火力発電は中国の発電量の80%をまかなってきました。それが2016年には66%にまで低下しています。石炭火力発電に関与している企業にとってはネガティブですが、代替発電方法を提供できる企業にとっては追い風です。代替電源のうち原子力発電や水力発電は、稼働までに時間がかかります。太陽光はクリーンですが、出力が低いので石炭火力を置き換えるベースロード電源となることはできません。今求められているのは、短期間で立ち上げることができ、出力が高く、かつ石炭よりもクリーンなエネルギー源だと推察できます。ここまで推察できれば、高効率のガス発電に対する需要が増加する可能性が高いことが予想できます。

出典:Wikipedia

波及効果②

ガス発電所が増えるとどうなるでしょう?当然、天然ガスの需要が増えます。世界的には天然ガスが余っていても、ガスは簡単に移動することができません。LNGという形で、超低温輸送することになります。LNGタンカーの建造にも数年かかりますし、港の受け入れ態勢、港からの運搬手段(パイプラインとか)も必要です。世界のどこかにガスはあるが、それを需要地まで運べないということが一番の問題なのかもしれません。短期的な需要の増加に供給が対応できないと、価格は上がります。これが日経新聞に出ている記事の背景だと思います。

出典:日経新聞

分かってしまえば、中国政府による石炭規制ニュースから天然ガス価格が上昇する論理展開は、当たり前に聞こえます。難しく、また投資を面白くするのは、それを不確実な未来に向けて行うことです。時々、高い確率で波及効果を予想できる事態に遭遇します。市場価格がその波及効果を織り込んでいないときは、大きく稼ぐチャンスであることが多いです。

波及効果③

さらなる波及効果を考えてみましょう。価格が上昇すれば、供給が増加します。天然ガスインフラ設備への投資は増えるでしょう。また、中国国内や近辺でガス田を開発できれば、輸送コストも抑えられます。

さらに中国の天然ガス需要が高まるのであれば、供給過多と言われる世界市場価格にも影響があるかもしれません。世界的に天然ガス価格が上昇すれば、天然ガスを原料としている企業にとっては調達コストが上がってしまうので減益要因になるかもしれません。日本のガス会社など、割高な天然ガス価格での長期契約を批判されることが多いのですが、これから恒常的に天然ガス高が続くのであれば、長期契約が良い経営判断だったと言われるようになるかもしれません。

論理的空想にふける時間を

あるニュースを聞いたときには、波及効果を考えることをおススメします。波及効果にはいくつかのパターンがあるので、慣れてくると思います。自分の考えた波及効果が現実になると嬉しいですし、違っていたとしても学びがあります。何より、小説より奇なる現実世界と向き合う投資が面白くなると思います。

良い投資アイディアほどシンプルなものが多いと思います。自分の子供にも説明できる投資アイディアが良いものであると言う格言もあります。しかし、①当たり前の事実をつなぎ合わせて確度の高い推察を行い、②その推察に基づいて大きなチャンス(推察が現実化したときに予想される価格と、現在の市場価格の乖離が大きい)と判断すれば大きな資金を投資して、③推察が現実化するまで待ち続け、途中で市場価格が推察と逆に向かうことに耐える ことは簡単ではありません。

“Investing is simple, but not easy” – Warren Buffett

Happy Investing!!

2017年の振り返り

御礼

みなさまのお陰で、2017年も元気に年末を迎えることができました。今年も大変お世話になりました。

さて、みなさま投資家としての1年はいかがだったでしょうか?ジャスダック指数が年初来+42%となるなど、小型株中心に非常に強い相場環境でした。私のように現金比率が高い保守的な投資家にとっては、上げ相場についてくだけで精一杯だったなという感覚です。

良かった点

・サイジング。少しづつですが、大きなチャンスに大きな金額を投じることができるようになりました。投下資本の20%を投資した企業が、リターンを牽引してくれました。

・身近なアイディア。上記企業は、友人との会話の中から発見しました。どんな人も、働いている業界については相当詳しいはずです。伸びている競合、調子が悪い競合など、投資家が知るよりはるからに早い現場情報を持っています。そのような情報を良い投資アイディアにつなげられたことは嬉しかったです。

・投資家との交流。平日昼間から株主総会に出席している若者など、場違いな人に声をかけることで交流が広がりました。

反省点

・頻繁な売買。仮に2016年末のポートフォリオをそのまま1年間保有していたとしても、2017年末時点での運用成績はほとんど変わらなかったという悲しい現実があります。長期的な見通しの明るい企業群を保有している場合、何もしないというのも株式投資では重要な判断です。自分ではうまく立ち回っているつもりが、結果としてポートフォリオの質を低下させている危険性もあります。「株式投資は売買ではなく、待つことで稼ぐ」というチャーリー・マンガ―の言葉が身に染みた1年でした。

・いきなりステーキ。私はコストパフォーマンスにうるさい消費者だと思いますが、いきなりステーキには感激してリピーターになっていました。それほど良さを体感していながら、立食高回転率というビジネスモデルは都会の一部でしか成立しないと思いこんで株式購入に踏み切れなかったことが悔やまれます。俺のシリーズとは違い、拡大再生産しやすいというビジネスモデルの本質を理解できていませんでした。

2018年が、読者のみなさにとってますます良い1年になりますように。

Happy Investing!!

10倍株の研究

四季報が発売されました!

12月15日に、新しい四季報が発売されました。個別株投資に興味ある方には、四季報の通読をおススメします。株価が高くなってしまったため、割安な銘柄探しに難儀していますが、年に4回の4000本ノックだと思って今回も取り組みたいと思います。

リンク】四季報通読のすゝめ(2016年12月16日)
リンク】四季報を通読しました(2017年3月20日)

10倍株の研究

今回の四季報の冒頭に、営業利益・時価総額が10年間で10倍になった銘柄リストがのっていました。10年で10倍とは、年率26%複利リターンです。私は将来の10倍株を見つけたいので、過去の10倍株から何かヒントを得られないかと調べてみました。

日経平均を10年間保有した場合

まず、日経平均を10年間保有した場合、約17000円が約23000円に増えました。これは、年率換算で約3%の複利リターンです。

日経平均(出典:Kabutan.jp)

複利効果

年率3%や10%、20%と聞いても、1年ではたいした差が生まれないために軽視してしまいがちです。しかし、年月を積み重ねるとその差は膨大になります。年率10%で10年運用できれば、元本は2.5倍に増えます。20%であれば6.2倍、26%であれば10倍になるのです。ちなみに年率3%では、1.35倍に増えただけです。

複利効果のグラフ

10倍株にみる2つの特徴

特徴① 銘柄コード

日本の上場企業には、1000から9999まで銘柄コードが付与されています。10倍株が生まれる場所には、どうやら偏りがあるようです。

10倍株の銘柄コード(出典:四季報)

上図にあるように、過去10年間の10倍株の多くが、2000番台と3000番台から生まれています。逆に5000番台からはありません。
ご参考までに、銘柄コードの分類を添付しました。

(出典:Wikipedia)

特徴② 時価総額

10倍株の購入時の価格を調べてみると、その半分が100億以下になっています。また、10倍株のうち80%が時価総額200億以下です。この数字は、個人投資家にとっては非常に心強いです。なぜなら、多くの機関投資家にとって時価総額200億円は手が出せない領域だからです。

10倍株10年前の時価総額(出典:四季報リストより、Nagatomo Investments算出)

まとめ

マクロでは低成長の続く日本ですが、過去10年で約50社の10倍株がありました。存在確率としては、上場4000社のうち約1/100。その多くは、銘柄コード2000~3000番台の超小型株(時価総額200億円以下)に隠れているようです。そんな観点で、四季報を通読してはいかがでしょうか?

10倍株候補を見つけましたら、是非ともNagatomo Investmentsまでご連絡ください。みなさんの情報をお待ちしています。

Happy Investing!!

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資本主義から逃げ出して、回帰して思う事

資本主義とは何か?

Wikipediaによれば、資本主義とは「生産手段の私的所有および経済的な利潤追求行為を基礎とした経済体系」です。1980年代から日本やアメリカで育った身としては、資本主義社会を当たり前に感じてしまうわけですが、これはごく最近のことです。そもそもヨーロッパで資本主義という言葉が使われだしたのが1850年。つい150年前のことでしかありません。例えば1万年前に始まった農耕など人間の歴史の時間軸で考えても、非常に歴史が浅いと言わざるを得ません。

資本主義から逃げ出した

私は、大学を卒業した2004年から2009年まで資本主義の最前線である金融業界で働きました。それまでの人生経験から世の中を理解する多様な切り口の中で、お金という切り口がとても強力だと感じていたからです。しかし、機関投資家の株式アナリストとして、事業やお金について日々考える時間がありすぎる中で、色々と疑問に思ってしまいました。一番の疑問は、お金という切り口で人間の行動が説明できたからと言って、それに何の意味があるのだろうかという点です。人間が生まれるはるか昔から地球上にあるものを、人間は私的所有していいのでしょうか?政府は経済成長、企業は売上や利益の成長と当たり前のように言うが、そもそも成長することは絶対的に正しいことなのでしょうか?

そんなことを考えすぎ、歴史の浅い資本主義から離れ、人間が古くから行ってきた生きていくための営みにヒントを求めようと思いました。具体的には、①自分の先祖が全て子供を残してくれたこと、②自分の先祖が全て衣食住を確保してきたことは、絶対的に本当だと思えました。逆に言えば、自分の先祖が全て都会に住んで経済成長を目指したとは全く信じられませんでした。そんな訳で、2009年から2013年の間、結婚して子供2人授かり、農業や大工仕事をしていました。

資本主義に回帰した

2014年から個人投資家として都会生活に戻ってきました。肉体労働を楽しめなかったという事もありますが、それ以上に資本主義を肯定できるようになったことが大きいです。

  

今の私の考えは、上記The Passions and the Interestsを書いたアルバート・ハーシュマンという経済学者に近いものです。人間の男には動物的本能として、他の雄を倒し、できるだけ多くの雌を囲って子孫を残したいという純粋な欲求があると思います。しかし、個別最適が全体最適に一致するとは限りません。ホモ・サピエンスが身体的能力に勝るネアンデルタールなど他の類人猿に対して優位に立てたのは、身体的能力が弱いが故に集団で協力することを覚えたからだと言う説もあるようです。上記ハラリ氏のサピエンス全史などはこの立場だと理解しています。つまり、人間社会の歴史とは、いかに動物的欲求を抑えて集団活動を維持していくかというものだということです。

集団活動を維持する仕組みとして、宗教や王朝、法律、貨幣制度などが生まれたのでしょう。しかし、人間が地球上で一番強い種族の地位を確立してしまうと、やはり個人的本能欲求を押さえつけるだけではフラストレーションが溜まってしまいます。そのはけ口が、売春、コロセウム、酒、ギャンブル、スポーツ、さらにコントロール不能になると戦争になったりするのでしょう。

「みんなのため」というスローガンが失敗することは社会主義国家を見ても明白なのですが、個人的には宗教的集団生活を体験して実感しました。現代資本主義社会における私有の概念や競争に背を向けて共同生活を選ぶ人たちは、日本においてもいます。どの集団も、始まりは美しいようです。崇高な理念に共感する人々が集まり、精神的な豊かさを追求するための場を作っていきます。しかし、時が経つにつれて生活が安定してくると、フラットであったはずの集団内部で上下関係が生まれます。私有の概念がないために力のあるボスが総取り状態になってしまい、まさに人間版サル山です。女性もボスに気に入られることが生存戦略につながるためか、一夫多妻制状態になりやすいようですし、暴力もあるようです。これらの経験を通して、人間の本能的欲求を発散しつつ、かつ全体最適のために活動してもらうことの難しさを実感しましたし、そう考えれば現代資本主義社会は極めてよく回っているなと感心してしまいました。

アルバート・ハーシュマン氏いわく、『人間の本能欲求を宗教などで押さえつけることはできない。圧力が強すぎて、いつかは蓋が吹き飛んでしまうことは歴史が証明している。唯一できることは、お互いの本能欲求をぶつけ合って、摩耗させることだ。』つまり、毒をもって毒を制するのが資本主義の本質なのです。競争が嫌だと言っていると、抑圧された本能欲求がより醜い形で現れて驚くような気がします。

資本主義から逃げ出したことは、私にとっては間違いでした。慣れない農業や大工仕事に励んでは疲れて寝ていた日々の数年間は楽しめたのですが、少し慣れてくると頭でっかちな自給自足的生活で自分の本能欲求を満たすことはできなかったようです。

Happy Investing!!