日本は老後2000万円 vs カナダは老後1.7億円?

日本では老後資金が2000万円必要と言われてから、「そんなに必要ない、いや、もと必要だ」という議論を聞きます。この数字、2019年の金融庁報告書がベースになっているようです。高齢無職夫婦は平均的に月5.5万円の赤字になっている(収入20.9万ー支出26.4万)。仮に夫65歳、妻60歳が30年生きたとすると、5.5万x12x30=1980万円という訳です。日本人男性の65歳時の平均余命は20年ですから、30年は過剰だという議論も出来ます(日本人女性の60歳時点の平均余命は30年なので、妥当な前提)が、高齢になればなるほど医療介護費がかかる点を考慮すれば、それほどおかしな計算ではないと思います。

今朝、カナダの主要新聞であるGlobe & Mailに、カナダの老後には最低でも150万カナダドル(1カナダドル115円として、約1.7億円)必要だと書いてあって、驚きました。円安効果もあってカナダの物価水準は東京の約2倍と感じますから、老後に5000万円必要というなら分かりますが、8-9倍も差があるものでしょうか?

根拠を調べてみると、カナダの数字は生活水準から逆算しているようです。一般的な70%ルールというのがあり、現在年収10万ドルであれば、リタイア後も生活レベルを維持するためにはその70%である年収7万ドルが必要だそうです。年金収入が年収3万ドルを差し引き、年収4万ドル分を自費でカバーするという考えです。資産から毎年4%を取り崩しても運用益でカバーできるという経験則から、4万÷4%=100万ドルになります。150万ドルがどこから来るのかはよく分かりませんでした。

日本の金額は、リタイア前の収入や生活水準を維持することを考慮していないこと。またカナダは長生きリスクに備えて資産100万ドルが減らない前提の数字ですが、日本は使い切って資産ゼロで死ぬ前提の数字なので、そもそもリンゴとオレンジを比べるように比較前提が違いすぎます。2019年以降のインフレ環境によって、日本の金額も20%増しくらいにはなっているでしょう。質素な生活をして資産を使い切る前提で、日本で2500万、カナダで5000万というのが最低ライン。生活水準を維持する前提では日本で5000万、カナダで1億円でしょうか。

大火事を防ぐために小さな火事が必要

カナダでは最近、夏の山火事が問題になっています。温暖化によって積雪量が減っているからだとか、降雨パターンが変わって空気が乾燥しているからという理由もあるのでしょうが、実はそれ以外にも人為的要因があるとGlobe & Mailの記事で学びました。

そもそもカナダの森林の植生は、山火事を前提としたものだそうです。落雷によって、自然に山火事は起きます。それによって古い植物が焼かれ、そこからまた新しい命が芽吹いていくことが、太古から続く自然循環だったそうです。ヨーロッパからの移住者が来る前の先住民族もこの自然循環を理解しており、さらに人為的な山火事を起こして植物の生育を促すような知恵もあったそうです。

そんな山火事が日常であるべき森林地帯に、「環境を守るために、山火事は悪」という近代ヨーロッパ的価値観が持ち込まれてしまいました。消防技術の発達によって、確かに小規模な山火事が広がる前に消し止めることができるようになりました。しかし、「世界から火事がなくなりました。めでたし、めでたし」とはならないのが現実世界の面白いところ。本来であれば小規模な山火事で燃えていたはずの木々が残ってしまい、それが滅多に起きない、人手に余るような大火事の際には燃料となってさらに大火事の被害を広げてしまうことが分かってきたのです。

山火事を防ぎたい。燃えている植物、住まいを追われる動物や人を見るのは、確かに心苦しいものだし、何とか助けたいと思う人間の良心は本物でしょう。一方で、大きな自然な流れに無駄に抗っているようにも見える。自然の摂理を理解しない人間の浅知恵による行動だと言ってしまうのは簡単ですが、助けたいという本能的な衝動と、助けると将来の被害がより大きくなるかもしれないという矛盾をどう解決していけばいいのでしょうか?

似た事例はいたるところにあります。景気対策もその一つ。景気が悪くなって倒産が増えるのは、それだけを見ると痛みがあるのですが、それによって競争力のない企業が淘汰されて、新しい、より強い企業が生まれる環境ができる。まさに山火事と同じではありませんか?日本のように政治が過度に倒産を嫌う政策(低金利、補助金)を取った結果、弱い企業が残ってしまい、全体として経済の競争力や活力が失われてしまっているように感じます。火事を目の前にしながら、それが長期的な全体最適につながっているなどと達観するのはとても難しいことですが、本能に勝つために日々学んでいきたいです。

最後に、カナダを代表するJasper国立公園の同じ場所で1915年と2020年に撮った写真です。1907年に国立公園に指定される前は、40-60年周期で山火事があったそうで、結果として木々が散らばって生えていました。それが、山火事を抑えるようになった現在では、我々がイメージする密集した森林地帯になっています。現在の姿が「自然」であるかのように洗脳されていますが、人為的に山火事を抑えた結果で実は全く自然ではないというのが皮肉なところです。